オフショアの潮風

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 砂浜に併設された駐車場に車をとめた。  もうすでに、何台かの車が先にとまっていて、ウエットスーツに着替えたり、ボードにワックスを塗ったりしながら、日の出の時間を、今か今かと待っている人々の姿が見える。  サーフィンの朝はとにかく早い。  いい波に乗るためには仕方がない。  学生時代も、ギリギリまで寝ている性分だったのに、サーフィンとなると話は違った。  まだ日が明けきらない薄闇の中、朝一番に入るときの体を包み込むような冷たい海が、特に好きだった。  まだ、辺りにレイカの姿はない。  三日前に会ったばかりなのに、ずいぶんと長く会っていないような気もする。  俺は何を期待しているんだ――。  ここに来る前に、コンビニエンスストアで買った、エスプレッソの缶を開ける。  いつもの、波乗り前のルーティーン。  コーヒー片手にハンドルにもたれかかり、波の砕け方と、雲の速さに、目を凝らす。 ――トクン、トクン、トクン。  自分の鼓動を全身で感じる。  やっぱり、緊張してるんだな。俺。  コンコン。  音の方に振り向くと、窓ガラスの向こうに、ウエットスーツ姿のレイカが微笑んでいた。  胸が大きく跳ね上がる。  夢で見た、レイカの姿と重なる。  いや。あれは、ただの夢だ――。  「おはよう、レイカ。あれ、手ぶら?」 「ボードはお気に入りの海岸へ置いてきたの」 「ここのポイントに入るんじゃないんだ」 「この場所は、これから人が増えて混雑するから。私のとっておきの場所に行こう」 「あぁ。任せるよ」   それからレイカを車に乗せ、元いた場所から、海岸沿いを南に向かって走った。 「あそこに見えている海岸で止めて」  10分ぐらい行ったところで、それまでの沈黙を破るように、レイカが口を開いた。  視線の先に、一面真っ白な場所が現れる。  まるで、雪が降り積もったみたいな。 ――白い砂浜か。いや、まさか。  サンゴやホタテが生息している海でなければ、白い浜辺などありえない。  今まで見たことのない砂浜だった。  この辺りの海なら、全て頭に入っているはずなのに。誰かに聞いた覚えもない。  だが、たいした広さではないな。  プライベートビーチくらいのサイズ。  そうか。人口に作られた可能性もあるのか。
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