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「ほら、玲也くんも!」
眩しい笑顔が手招きをする。
鼓動が一段と速くなった。
多少の不安はあるが、海への恐怖感はさほど感じられない。それ以上に、ここで格好の悪い所をレイカに見せるわけにはいかない。
意識的に大きく息を吸い込み、不安と一緒に静かに吐き出す。
そっと足を水に浸すと、その冷たさが脳天まで突き抜ける。指先もジンジンと痺れてきた。
気温に比べると2ヶ月ほど遅れて海水温は高くなるので、今がサーフィンのベストシーズンのはずなのに、この海はまるで冬のように水温が低かった。
海面に浮かべたボードを持つ手に、自然と力が入る。それからボードを「頼むぞ」とポンポンと叩く。
――よし。行ける。
海に体を委ねると、ひとかきひとかき、慎重に大きく水を捕らえながら、パドリングをして沖へ向かっていく。
――いいぞ。体が感覚を覚えている。
不安な心を体がリードしてくれているような心強さが素直に嬉しかった。
でもコントロールは思うようにいかない。
筋力が落ちたせいか、腕の可動域も狭い。
盛り上がったうねりが一ケ所から割れ始め、頭サイズの波が徐々に迫って来る。
胸の高鳴りは最高潮だった。
だが、ここは慎重に。冷静に。
――行け!
波がブレイクする箇所の波肌で体勢を変え、斜めにテイクオフして駆け上がり、トップの部分で方向を鋭く水平に切り替える。
力み過ぎず、滑らかに。
その一瞬一瞬がスローモーションのように感じられる。
朝日に染まる空に白いしぶきを上げる。
そして波のトンネルをくぐり抜けていく。
――まだまだ行ける!
胸の奥底が熱く踊り狂う。
沸き返るような興奮が一気に迫ってくる。
波乗りの刺激を、心と体で堪能する。
脳内をドーパミンが駆け巡り、その快楽を思う存分に味わった。
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