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それから俺たちは時間が経つのも忘れて、夢中で波に乗り続けた。
お互いのライディングを見比べては、声を上げて笑い合った。
こんなに大笑いをするのはいつぶりだろう。
心のままに笑う方法も忘れていたのか。
子供の頃に置き忘れてしまっていた、「サーフィンを楽しむ」という感覚は久しぶり。
入る前は、あんなに怖く思えていたのに。
学生時代の親友と久々に会ったみたいに、海に入った瞬間、あの頃の気持ちに戻っていた。
すでに高い所まで上っている太陽。
その太陽と示しを合わせるように、風が囁きを小さくすると、空と海が交わる場所にまた蜃気楼が姿を現す。
俺たちはまどろむ海の静寂に身を委ねた。
穏やかな海面にボードを浮かべて座っていると、ゆりかごに揺られているような安らぎを感じた。360度ぐるっと海に囲まれる感覚に、もう恐怖を感じることはない。
海に入るまでの不安がまるで嘘のような、充実した時間を過ごした。
サーフィンは難しい波を乗りこなす快感を味わうことも醍醐味だが、こうして肉体を海に預けたときに感じられる幸せもまた、サーフィンから離れられなくなる理由の一つ。
そして「おまえはちっぽけな存在だ」と告げられ、まだここに生きていることを実感するんだ。
全ての物から開放された無防備な自分。
その隣には、こぼれ落ちるような笑顔。
――好きだ。
無邪気に笑う姿を見て、そう思った。
理由を聞かれても困ってしまう。
うまく言い表せそうになんてない。
そんな感情に心が満たされる。
でもそれこそが、好きだという感情ではなかっただろうか。
海に浮かびながら、この胸のざわめきと、昔の記憶を照らし合わせていた。
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