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來樹の足首をしっかりとつかんでいる手はシワだらけだった。つまりお年寄りっていうことだ。來樹はほっと息をついた。
どうやら行き倒れをよそおった誘拐犯ではなさそう。本当に具合が悪いんだ。
肩から腰をおおっている灰色のポンチョのせいで、体つきはよくわからないが、背丈は大きくない。もしかしたら、來樹よりも少し小さい位かもしれない。声がしゃがれているし、頭にかぶっているフードで、顔も隠れているので、おじいさんなのかおばあさんなのかは、わからなかった。
「あのう、歩けますか?」
「なんでじゃ?」
「公園にウォーターサーバーが」
あるんですよ、と言いかけて、口をつぐんだ。おじいさんだかおばあさんだか……は、片方の手は來樹の足首をしっかりと握ったまま、もう片方の手で、來樹の腰のあたりを指さしていた。
來樹の目は、その指にくぎ付けになってしまった。細かく震えている指は、細くて、色は肌色と言うよりも茶色に近い。しわしわにしわがれて、関節がふくらんで節くれだっている。まるでミイラみたいだ。
今年六十才になる、來樹のおばあちゃんの指は、ぜんぜんこんな風じゃない。ちょっとシワはあるけれど、ふっくらしているし、もっとずっと……、うん、そうだ、「生き生き」してる、と來樹は思った。
水分が抜けきった枯れ枝のような指を見たら、こんな風に道端で行き倒れてしまうのも不思議じゃない気がしてきた。
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