これって運命の出会いなの?

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「じゃあ、私はこれで」と、來樹が立ち去ろうとすると、「待てぇい!」とおばあさんに呼び止められた。 「お礼なら、いいですよ」と來樹は体半分だけ振り返り、にっこり笑ってみせた。 「名前は?」 「三条(さんじょう)來樹(きき)です」 「簡単に名を明かすな」 「うー」來樹は頬をふくらませた。聞いたのはおばあさんなのに……、と思ったからだ。 「なんじゃ、そのふくれっ面は。危険だから教えてあげたんじゃ」 「はーい」  学校でも家でも、知らない人に名前を言ってはいけません、と言われている。だけど命の恩人に対して、名前を聞いておいて、答えたら名前を簡単に言うな、なんて、ちょっとひどい話だ。 「危険だから、家まで送ってあげよう」 「けっこうです! 今度は簡単に家を教えるな、って言うつもりなんでしょ? その手には乗りませんよーっだ」  來樹はツン、とアゴをあげて、おばあさんの申し出を断わった。だけど、言ってしまってから、お年寄りに対してちょっと失礼だったかな、という考えが頭をよぎった。  だから、「もう大丈夫ですよね。じゃあ、私はこれで」と、ちょっと声のトーンを落として言った。 「待て、と言うておろうが!」と、逆におばあさんはエキサイティング! 「えー。まだなにか用事があるんですかあ?」 「じゃから、送ってあげよう」 「イヤですよ。知らない人に家を教えるなんて『危険』だもの」  來樹はさきほど言われたセリフを逆手にとって反撃した。
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