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「なにーっ! ウチが危険人物に見えるのかい?」
「さっき、簡単に知らない人に名を教えるな、って、おばあさんも言っていたじゃないですか」
「あれはっ! ウチのことじゃなくて」
「さよーならー」
変なおばあさんに付き合ってなんかいられない。來樹は全速力で走り出した。背中でランドセルがカタカタなる。正確にいうと、ランドセルの中にはいっている、筆箱がなっているのだ。
公園を出ると、來樹は足を緩めた。
思い出したら、笑いがこみ上げてきた。灰色のポンチョを着ているおばあさんなんて、見たことがない。
着ているのがおばあさんじゃなくて可愛い女の子、それにポンチョの色も灰色じゃなくて白で、さらにふちにファーが付いていれば、かわいいかもしれないけれど。でも、それも冬なら、だ。
來樹は半そでのTシャツから出ている自分の腕を見た。
(この季節にポンチョ……ないな)と肩をすくめた。
まだ夏は始まったばかりなのに、來樹の肌はもう少し陽に焼けている。腕から視線を下に下げると、手の甲が見える。少し日焼けしているけど、つるんとしていて健康的だ。
大きくも小さくもない手はいたって普通。だけど、指先の丸い爪はあまり好きじゃなかった。細くて長い、形のいい「大人爪」だったらよかったのに。
友だちのくるみの爪は縦長の大人爪だから、手をつなぐたび、來樹はいいなぁ、と思っているのだ。
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