85話 【過去編】村でのひと時

1/1
前へ
/308ページ
次へ

85話 【過去編】村でのひと時

「ライル様が来てくれたおかげで、何とか飢えずに済みましたね」 「おうよ。ライル様には感謝してもしきれねぇ」  村長や村人たちが、ライルへの感謝の言葉を述べている。  その顔からは、安堵の表情が読み取れる。 「とりあえず、村の食糧事情に関してはこれでなんとかなるでしょうな」 「ああ。しばらくすれば、もう少し余裕が出てくるだろう」 「ライル様が品種改良に関わられたという、例の新種作物には期待できそうですな」  村人たちは、ライルに対してかなり好意的だ。  ライルが幼い頃よりこの村に顔を出しており、半ば村の一員として受け入れられているのが理由の一つであろう。  だがそれ以上に、ライルが第一王子として村のために尽くしてくれているという信頼感があるからだ。 「それで、今後どうされるおつもりですか?」  ロゼリアは、ライルにそう問いかける。 「うむ。ルーシーや村長の話によると、やはり森の奥の方から魔物が流れてきているようだな。1週間ほど滞在して、間引くことにしよう」 「ははっ! 承知いたしました」  ライルの親衛隊。  専属とはいえ、そこそこの人数が在籍している。  そんな人材を、たかが1つの村のために動かし続けるのは割に合わない。  だが、これも訓練の1つと考えれば話は別だ。  次期国王ライル。  彼はまだ13歳であり、経験が足りない。  彼の指揮の元で行う魔物退治は、ただの雑事ではない。  将来国王となったときに、自らの判断で部下を動かすという練習にもなるのだ。 「後は、持ってきた新種作物の苗が無事に根付くのも見届けたいところだな。ロゼリア、手伝ってくれるか?」 「もちろんでございます。若様」  ロゼリアが跪く。  彼女は自分の主君に絶対の忠誠を誓っていた。  そんな会話をしている2人に、話しかける男がいた。 「よう、ライルの小僧。聞いたぜ? 魔物退治をしてくれるんだってな?」  男の名前はダストン。  村の中では随一の戦闘能力を持つ斧使いだ。  ライルとは旧知の仲である。 「ああ。もちろんお前も手伝ってくれるんだろ?」 「おう! 任せときな!」  ダストンは20代前半。  平民だが、ライルよりもひと回り年上である。  ルーシーと同じく、言葉遣いは雑でも許されていた。 「ライル様、俺も同行させてもらっていいですか?」  ダストンの後ろにいた別の男性がライルにそう問う。 「ん? まぁ最低限戦えるなら構わないが……。村で待っていた方が安全だぞ? 何か参加したい理由でもあるのか?」 「実は、今度彼女にプロポーズしようと思っているのです。魔物を狩ることができれば、この村では文句なしの一人前と見なされるので……。プロポーズ前の手土産代わりに、良いところを見せておきたいのですよ」 「ほほう。それは素晴らしい心掛けではないか」  ライルは納得したように笑う。  親衛隊がいる状態での魔物狩りであれば、危険性は少ない。  そこで経験を積んでおけば、ライルや親衛隊が去った後の日常においても、十分役に立つはずだ。 「なるほど、そういうことなら問題ない。しっかりとついてこい」 「はい!!」  男が元気よく返事をする。  そして、その他に数人の若者も加わり、魔物の討伐隊が組織されていく。  だが、その中にまだ幼い男の子がシレッと混ざっている。 「おっと。ツルギ、お前はダメだ。幼すぎる」 「えー。俺は大丈夫だって。ちゃんと戦うよ! ライルの兄貴!」 「駄目なものはダメだ」  ライルはきっぱりと拒否する。  ツルギはまだ6歳。  討伐隊に参加させるにはあまりに小さい。 「ぶーぶー」 「そう拗ねるな。今度、ダストンに斧の扱いを教えてもらえ。たまにで良ければ、俺が剣の扱い方を教えてやってもいいぞ」 「ちぇっ。仕方がないな……」  ツルギは渋々納得する。  こうして、ライルたち一行は魔物狩りへ出発した。  そして無事に狩りは成功し、村には安寧が戻ったのだった。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1015人が本棚に入れています
本棚に追加