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1話 第一王子、追放される
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
吐き捨てるようにそう言ったのは、俺の父であるバリオス・ブリケード陛下だ。
ここは謁見の間。
周囲には、宰相や大臣など、国の重鎮たちが集まっている。
俺はライル・ブリケード。
ブリケード国の第一王子であり、ブリケード国王の座を継ぐ者だ。
……いや、正確に言えば継ぐはずだった者か。
「ち、父上。なぜそのようなことを……」
「知れたこと。3年前、14歳で迎えた成人の儀式……。そこでお前が得たスキルは何だった?」
父が不機嫌そうな顔で俺を見据え、そう問う。
「神のお告げでは、【竜化】というスキルを得たようです」
「ふん……! 竜化だと!? そのようなスキルは聞いたことがない! そもそも、人知を超えた存在である竜に、人が化けられるものか」
「しかし、神のお告げに間違いはないと司祭も言っておりましたがーー」
「神は確かに間違えない。だが、お前が嘘をついている可能性はあるだろう。現に、お前は竜に変化できないではないか!」
父上がそう言う。
確かに、俺は竜に変化できない。
スキル自体が不発になるわけではない。
変化した後の姿が、決して竜には見えないのだ。
「スキル自体は発動するのです。もうしばらくお待ちいただきたく思います」
「3年は待った。これ以上は待てぬ。王位継承権の第一位であるお前が不良品では、この国の将来が危ぶまれるのだ」
父上が毅然とそう言う。
「そ、そこを何とかーー」
「みっともねえぜ! 兄貴……いや、ライル!」
俺の言葉を遮るように、1人の男がそう言った。
「ガルド……」
ガルド・ブリケード。
この国の第二王子だ。
王位継承権は第二位である。
彼は、俺の3つ下。
ちょうど1か月ほど前に、成人の儀式を終わらせたところだ。
彼が授かったスキルはーー。
「ライルも、俺みたいにA級スキルだったらよかったのにな。俺の【剣聖】スキルなら、そこらの騎士が束になってかかってきても返り討ちだぜ?」
ガルドが自慢気にそう言う。
祝福の儀式で授かるスキルには、ランクがある。
一般市民によく出るのは、D級とE級の2種類だ。
一般市民でC級スキルを発現できれば、かなり恵まれていると言っていい。
貴族によく出るのは、C級とD級だ。
E級は落ちこぼれ扱いされる。
対して、B級のスキルを発現できれば有望株として見られる。
そして、A級になると、俺たち王家ぐらいにしか発現しない。
ガルドは、スキルに恵まれたと言えるだろう。
だが、俺の【竜化】スキルは、神の言葉によればそれを上回るS級なのだがーー。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
ガルドがそう言う。
「その通り。正直に話してくれていれば、次期国王の座からは廃したとしても、ガルドの側近としての道もあったのだがな。国王であり父である余に嘘をつく無能な不届き者は、この国には要らん」
父上がそう言う。
俺が授かったのは本当にS級の【竜化】スキルなのだが、信じてもらえていないようだ。
「な、なにとぞしばしの猶予をーー」
俺は必死に懇願する。
単純に、王族という身分から追放されたくないという気持ちもある。
しかし何より、俺はこの国を守っていきたいのだ。
ここ数年、近隣諸国が力を付けてきている。
また、魔境における魔物や亜人たちの勢力も増している。
内輪もめしている場合ではない。
確かに、俺の竜化スキルはまだ開花していない。
しかし、俺はそれ以外にも、勉学や戦闘訓練に励んできた。
この国のために働いていく覚悟はある。
そして、ゆくゆくはS級の竜化スキルを駆使してこの国に安寧を。
そう思っていた。
「くどいぞ。これ以上余を失望させるな。ライルよ」
父上が冷たく吐き捨てる。
「はっ! いいことを思いつきました、父上。ライルに、最後のチャンスを与えてあげましょう」
ガルドが悪そうな顔をしてそう言う。
「チャンスだと?」
「ええ。……おい、ライル! そこまで言うなら、今ここで竜化してみろよ。お前が立派な竜に変化したなら、父上も考えを改められるかもしれんぞ」
ガルドが嘲るような口調で、そう言う。
「ふむ……。そういうことか。確かに、それぐらいであればいいだろう。文字通り、最後のチャンスというわけだ。ライルよ。この最後の機会に、余の期待に応えてくれ」
父上がそう言う。
ここまで来れば、一か八か竜化するしかない。
だが、まだ俺はこのスキルを使いこなせていない。
この窮地にこそ、ちゃんとした竜に変化できることを祈るしかない。
俺は覚悟を決める。
「……わかりました。はああ……!」
俺は竜化スキルを使用するために、力を開放する。
ゴゴゴゴゴ!
俺からあふれる闘気と魔力を受けて、周囲が揺れ始める。
「こ、これは……!」
「おお……!」
ガルドと父上が、驚いたような顔をしてそうこぼす。
今までの竜化よりも、手応えはある。
これはひょっとするとひょっとするかもしれない。
俺は最後の仕上げとばかりに、力をさらに開放する。
「ぬああ! ぬあああぁー!」
ゴゴゴゴゴ!
周囲にさらなる振動が伝わる。
俺の周りに、砂ぼこりが巻き起こる。
そして、その砂ぼこりが収まり始めた。
変化した俺の姿を見て、父上、ガルド、それに他の者たちが息をのむ。
そしてーー。
「ちっ。期待させおって」
「ぷははははっ。やっぱり、無能のライルにはその姿がお似合いだぜ。図体だけはでかい羽付きトカゲに変化したところで、何もできやしねえよ」
父上が落胆した様子で、ライルが嘲るような声でそう言う。
「また……失敗か……」
俺は自身の手足を確認して、そうつぶやく。
S級の竜化スキルではあるが、今のところはこの羽付きトカゲの姿になる力しかない。
体は2メートルぐらい。
下級の兵士や一般冒険者よりは強いだろうが、これがS級スキルの力だとは思えない。
「はっ! これで分かったろ? 無能のライル」
「改めて宣言する。ライル、お前を我がブリケード王家から追放する!」
父上が場をまとめ直してそう言う。
周りに立っている貴族たちが、俺に侮蔑の視線を向けてくる。
「やれやれ……。これで、我らがブリケード王国も安泰ですな」
「ですな。剣聖のスキルを持つガルド様が次期国王様ですか」
「間違いなく、ブリケード王国の平和を維持していただけるでしょう。無能のライルが国王になったときのことを想像すると、ぞっとしますな」
「まったくです。はっはっは!」
周囲の貴族たちが口々にそう言う。
「ふん。いつまでそこにいる気だ? ライルよ。さっさとここから立ち去れ!」
「はっ! なんなら俺が、ぶっ殺してやろうか? なあに、ただのトカゲ退治だ。だれも気にしないぜ」
ガルドが剣を抜き、俺ににじり寄ってくる。
「ま、待ってくれ。俺とお前は、兄弟だろう? 自分で出ていくから、その剣をしまってくれ」
「お前みたいな無能が兄だなんて、俺の人生の汚点だよ。兄弟だなんて、二度と口にするな。死にさらせやゴミが!」
ガルドが剣を振りかぶり、俺に迫ってくる。
「ひいいっ!」
俺はトカゲ状態のまま、命からがら王城の謁見の間から逃げ出した。
後ろでは、俺をあざ笑う父上や貴族たちの声が響いていた。
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