“運命の車輪”

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 降水確率30%、とはいえ朝の時点では晴天、風に湿気も感じなかったので荷物になるからと傘なんか持って来なかった。  授業が終わり部活をやってる間も怪しい雲行きだったもののまだ天気は持ってたし、余裕だろいけるいける。  そう思っていた時期が俺にもありましたさ。俺は自分のついてなさを舐めていた。  部活を終えて学校を出ること十分、ぽつりぽつりと(ひたい)に当たり始めた水滴がバケツをぶちまけたような勢いで叩き付けてくるまでそう時間はかからなかった。  大慌てで雨宿り出来そうな場所を探して目に付いたマンションの玄関へと駆け込む。五段ほどの低い階段の上に雨を凌げる少しばかりのスペースがあった。マンションの中へはオートロックで入れないが、まあ入ったところで知り合いが住んでいるわけでもない。  夕立か、ほんっとこんなんばっかだよな俺。口には出さず心の中でボヤく。  昼の売店では後輩に最後の焼きそばパンを目の前で掻っ攫われ、さっきも部活で些細なミスを目ざとく見ていた監督にこっぴどく叱られてその様子をマネージャーに笑われたばかりだ。なにかにつけて小さなツキの無さが俺をイラつかせる。  不幸中の幸いと言えば、部活で汗を拭くタオルがカバンに入っているってくらいか。濡れた髪を拭いても雨が止まないんじゃ意味がないが、かといって濡れたままというのも居心地が悪い。俺は少し悩んだけれども、結局カバンからタオルを引っ張り出して雨露を拭うことにした。  幸い風はないので雨が吹き込んでくる心配はないが、かといって止む様子もなく、髪を拭い終えてもまだ轟音を立てて降り注ぎ続けている。  叩き付けるような雨の幕はまるで壁のようで、ここに囚われているような閉塞感、あるいは外から孤立してしまったような孤独感を掻き立てた。まあシンプルに言えば『ひとりで憂鬱な気分になった』ってだけの話なのだけれども。  ぼーっとしていても憂鬱な気分が増すばかりだ。他にも雨に降られたやつがいるはずだとスマホを取り出したところで、きゅるきゅるばしゃばしゃと水を切る車輪の音が聞こえてきた。  エンジン音は無いから自転車か? 俺よりツイてないやつが向こうからやってきたな。そう思って道路に視線を向けると、それはもうすぐそこまで迫ってきていた。  椅子に大小二輪ずつの四輪を携えた見た目の、そう、車椅子だった。それも冗談みたいに速度が乗っている。 「ちょっ! っとお! あけて! ねえっ!!」  豪雨の中を爆走してきたソレは甲高い、しかし妙に楽しそうな声で警告を発しながらこちらに向かって突っ込んで来た。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加