“運命の車輪”

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 今度は車椅子の肘掛けをぽんと叩く。 「電動車椅子と出会った。重い車輪が電動で動くだけでも驚きだったけれども、興味を持って調べているうちにそれを開発研究している機関がいくつもあって日々利便性向上に励んでいることを知った。天啓を得た気分だったよ」  彼女が指を滑らすように車輪側面の手摺のようなもの(ハンドリム)に触れると、車椅子は水を切って滑るようにその場で一回転した。 「あたいは物理学と、この街で推奨されている機体工学にのめり込んだ。十代前半(ローティーン)のうちから目的を持って必死に勉強して、そして今じゃあなんと機械化電動車椅子の開発者さ!」  それは俺が思っている不幸な過去を語る顔とはずいぶん違っていた。彼女には自虐も自嘲もない、本当に自慢の人生を語る輝いた表情だ。 「見てくれこのあたい専用の自信作【名前はまだ無い一号Ver2.45】を。電気での自走とパワーアシストによる手動を切り替え可能、オートバランサー搭載でかなり無理な角度に傾いても復帰できる。さらには段差登攀用の補助ホイールでちょっとした段差なら勢いがあればさっきみたいに無理矢理登ることもできるんだ。凄いだろう! なおコスパが見合わず認可も下りてないので販売は出来ないんだな! ゆえに専用!」  彼女は一回転では飽き足らずぎゅるんぎゅるんとこっちを向いたままフィギュアスケートさながらの巧みな八の字を描いて滑走した。切り返すたびにその車輪は彼女のたおやかな指先の動きを遥かに超えた挙動を見せ俺を驚かせる。 「ま、そんなわけで若い頃からなにか悪いことがあっても『これがあたいの人生にどう影響するかはまだわからないぞ?』って考える習慣がついてね。このカード、“運命の車輪”(ホイール・オブ・フォーチュン)を知ったときには『ああ、これぞ我が人生』と車椅子のペイントにしたわけさ」 「な、なるほど……力強いっすね」  俺が辛うじて捻りだした一言に、彼女は笑って頷いた。 「あたいの人生にはパワステがついてんのさ。キミはどうだい?」
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