ティータイムの告白

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茉莉衣と鉄観音が廊下の方を見ると、もう一人の同居人である岡崎が居間に入ってきた。 「ただいま」 明らかに元気がない。 一瞬、茉莉衣と鉄観音は目を合わせた。 「岡崎さん、おかえりなさい」 「おかえり岡崎。あんたも一緒にどや?」 鉄観音がカップを掲げてみせた。岡崎はそれを見て、 「うん。手洗いうがいしてくる」 と言って、洗面所へ向かった。 岡崎の姿が見えなくなると、茉莉衣と鉄観音は顔を見合わせた。 「なんだか元気がありませんでしたわね」 「なんかあったな、アレは。よし、月餅二個やろう」 茉莉衣はジャスミンティーを一口飲んで、首を傾げた。 「というか、最近の岡崎さん、ちょっと変じゃありません?」 鉄観音は我意を得たり、と膝を叩いた。 「せやねん。前はいつでもふわふわにこにこ癒し系ボーイやったのに、最近はなんやアンニュイやねんな」 「そうなんです! 学校で何かあったのでしょうか」 うーんと唸りながら、鉄観音はポットからカップにジャスミンティーを入れ、そこへミルクを注いだ。茉莉衣の表情が曇る。 「もしくはバイト先やな」 「……いじめ、とかだったらどうしましょう」 「うちがそいつをしばき倒したるわ」 「ぼ、暴力はいけません!」 「殴らんとわからん奴もおるんやで」 「で、でもっ……」 そんな話をしていると、噂のアンニュイボーイの足音が聞こえてきた。鉄観音は岡崎のカップを取りにキッチンへ行き、茉莉衣も月餅の準備をした。 いつもの岡崎なら、 「わあ、いい香りだね! なんのお茶?」 とか、 「わあ、二つももらえるの? 嬉しいな!」 とか、言うのだが、黙って茉莉衣の隣の椅子に座ると、 「ありがとう」と、冴えない表情でボソッと言っただけだった。茉莉衣と鉄観音はまたも目を見合わせた。 「あ、岡崎、ミルク入れると美味しいで。入れたろか?」 と、鉄観音はミルクピッチャーを差し出した。 「いい、いらない」 と、そっけない返事をする岡崎に、茉莉衣は強い仲間意識をもったが、その表情の暗いことに不安になった。ずずず、と岡崎がお茶をすする音が居間に響く。 「わ、おいしいね!」 という岡崎の明るい声を期待していた鉄観音だが、岡崎は何も言わなかった。ただ、カップの底を物憂げな表情で見るともなく見ているだけである。皿の上に載った月餅には目もくれない。 「ほら、月餅も食べや。お茶によお()うて美味しいで」 鉄観音が薦めると、うん、と気のない返事をして、岡崎は月餅を一口食べた。もさもさと口を動かしているが、味わっているようには見えない。 「この月餅、美味しいでしょ? 鉄観音さんの職場の近くに中華菓子専門のお店があるんですって」 と、茉莉衣が気を利かせて言ってみたのだが、岡崎は、へえ、とこれまた気のない返事である。ここまで露骨だと、茉莉衣は不安を通り越して恐怖を感じた。人というのは、こんなにも変わってしまうものなのだろうか。それとも、前までのあのふわふわにっこりの岡崎は本当の岡崎ではなく、今目の前にいる不機嫌ともとれる岡崎が本来の姿なのだろうか。 まるで別人のようになってしまった岡崎が、こんなに近くにいるのにものすごく遠い存在に感じて、茉莉衣は悲しくなった。
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