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茉莉衣と岡崎が声を揃えて驚くと、鉄観音はしばらくしてからふと我に帰ったように、
「え?」
と、間抜けな声を出した。
その「え?」が何の「え?」かわからず、茉莉衣も岡崎も、
「え?」
と、思わず漏らした。
しばらく「え?」の応酬が続き、三者は見合った。意に介さない鉄観音の表情から、真意を汲み取ろうとしたが、茉莉衣には何もわからなかった。
「その、つまり、鉄観音さん……今のは、その、岡崎さんに対する……こ、こ、告白、ということでよろしいですの?」
茉莉衣は思い切って訊いてみた。さっきの鉄観音の「好き」は、どう考えても茉莉衣の言ったような意味合いであるように思える。しかし、当の本人は、
「は?」
と、眉を顰めた。
「……え、さっきの好き、っていうのは何だったんですか?」
岡崎も戸惑いを隠せないようで、鉄観音に問いかけるその声は、わずかばかりではあるが震えている。助けを求めるように茉莉衣の方を見たので、茉莉衣は岡崎に力強く肯いてみせた。
鉄観音は、手元のカップを手に取り、ぐっと一気に煽った。ジャスミンミルクティーを飲み干すと、カップをテーブルに置きながら大きく息を吐いた。
「岡崎っ」
「は、はいっ」
鉄観音は岡崎の目をじっと見つめた。いっそ睨んでいると言っても過言ではない。ジャスミンの香りが漂う居間に、緊張が走る。
「遥希くんにあんたが伝えるべきこと、それは、好き、ってことや!」
茉莉衣は鉄観音が意図するところをようやく理解でき、安心して力が抜けた。そしてふつふつと笑いがこみ上げてきた。
「もう、鉄観音さんったら、省略しすぎですよ。『好き、や』だけだと鉄観音さんが岡崎さんに告白してるみたいに聞こえるでしょう?」
すると鉄観音も豪快に笑った。
「あっはっはっ、すまんこっちゃ。自分の言いたいこと早よ言わな! と思ったら要点だけ言うてしもてたわ。堪忍堪忍あっはっはっ」
茉莉衣と鉄観音が和やかに笑い合い、鉄観音は新しくジャスミンティーを自分のカップに注いだ。もちろんミルクも忘れない。どさくさに紛れて茉莉衣と岡崎のカップにもミルクを入れようとしたが、茉莉衣は微笑みながら自分のカップを手前に引き寄せた。
しかし、呆然と固まっている岡崎のカップにはミルクが注がれた。淡い緑色の水面が白く濁っていく。
「あ!」
思わず茉莉衣は声を上げた。が、岡崎は自分のお茶がジャスミンミルクティーになってしまったことも、茉莉衣が声を上げたことにも、気づいていないようだ。
何の反応もない岡崎を茉莉衣と鉄観音はじっと見つめた。鉄観音は何かを言おうとしたが、それを察して茉莉衣が手で制した。
宙を向いていた岡崎の目にふと光が宿ったと思うと、その頬はうっすらと桃色に染まり、そこから急激に燃え上がるように真っ赤になった。
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