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あれから、何度もベッドを抜け出して閉鎖病棟へと行こうとしたが、だがその度に発見され連れ戻されるだけだった。それから何日の夜、何回の悪夢を繰り返した後、俺はとうとう病院から退院することになった。結局、美咲と会うことは出来なかったのだ・・・。
退院する日の前夜、そんな俺を哀れに思ったのか。あの若い看護師が美咲の現在の状態をそれとなく教えてくれた。それによると、彼女は元々子供の頃から重い解離性同一性障害を患っていたが、それがあの晩以降さらにひどく重症化してしまったという。そして現在、閉鎖病棟の方で必死にその治療にあたっているとのことだった。それから最後に看護師は、明日ここを退院したらすぐさまこの島を出るよう俺に忠告した。あなたの命を密かに狙っている者がこの島にはいるからと・・・。
翌日の早朝、俺は港で帰りの船を待っていた。船を待っている間、空をぼんやりと眺めていると、黒々とした雲の内側から、時たま、雷の小さな囁き声が聞こえてきた。それはこの島にも、これから嵐が訪れることを密かに告げるものであった。
俺はあの後看護師に、東京へ帰ったら美咲宛てに手紙を出すから、それを彼女に渡して欲しいと頼んだ。最初は看護師も断っていたが、しかし、それでも必死に頼み込むと渋々ながらも了承してくれた。
間もなくして、高松港行の船がやって来た。早速それに乗り込もうとすると、ふと誰かに声をかけられる。後ろを振り返ると、気味の悪い顔した若い男が立っていた。
「もう帰られてしまうのですか? 」
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