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そんな昔の苦い記憶に思いを馳せていると、不思議な音がふと耳に流れてきた。不思議と言っても、それはただ単にどこかで鐘が鳴る音がそっと聞こえてきただけなのだが、しかし何故だろう、その聞こえてくる音色がどこか懐かしい感じがしたのだ。まるでずっと昔に、それも遥か大昔に、どこかで同じものを聞いたことがあるような気がする・・・。
「島には観光に行くのかい? 」
その鐘の音に聞き惚れていると、突然、見知らぬ男から話しかけられた。俺に話しかけてきたその男はどうやらこの船の乗組員であり、その逞しい体つきと黒く日焼けした顔からは如何にも海の男という感じがした。
「島に住んでいる友達に会いに行くんです」
そう答えると、男はそうかそうかと頷いた。
「祭りでもない日に島民以外の客を見かけるのは珍しいからね。あんな島に何しに行くのか、ずっと気になっていたんだよ」
鬼ノ子島にはあまり観光客が訪れないのだろうか。見てみれば確かに、この小さな船には俺以外の乗客はいなかった。
「あの、ちょっといいですか? 」
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