最終話 くとぅるふ、ふたぐん

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 東京に帰ってから直ぐに彼女に手紙を送った。しかし、待てど暮らせど返事はいつまで経っても届くことはなかった。また、あの恐ろしい夜の出来事があって以降、俺はひどい不眠症に悩まされることになった。毎晩、毎晩、言葉に出来ない悪夢を見るようになったため、次第に寝るのが怖くなり、寝てはすぐ起きて、寝てはすぐ起きてをひたすら繰り返す日々だった。それでもある日の夜、容赦なく襲い掛かって来る睡魔についに負けてしまい、そのまま混沌としたまどろみの中に沈んで行ってしまった。  その夢の中で俺は水の中にいた。すると遥か遠くの方から、誰かの呼び声が聞こえてきたため、その声の方へと泳いで行った。何百年、何千年と時の中を彷徨った挙句、とうとう海底深くにある謎の神殿へと辿り着く。  その場所がどこであるのかは、良く知っていた。知り過ぎるほどに良く知っていたのだ。まだ戦争が始まる前、子供頃に見つけた秘密の場所・・・。戦争が終わった後、全てから逃げるために訪れた眠りの場所・・・。  それからしばらくの間、その神殿の中を泳ぎ回っていると、やがて巨大な門が見えてきた。そして・・・、その門には奇妙な怪物の絵が刻まれていた。頭部の触手、鱗の胴体、大きな鉤爪、細長い翼・・・。それは地獄に住まう悪魔の姿でもなく、ましてや慈愛に満ちた天使の姿でもなかった。それは宇宙の破壊と破滅を一身に背負う者の姿・・・。そうだ、それは闇の魔術書ネクロノミコンに狂おしくも描かれている、恐ろしいほどに偉大な存在、たった一人この地球に君臨する絶対神の姿である!  るるいえ・・・、くとぅるふ・・・、ふたぐん・・・!  俺は再び帰ってきたのだ。あの方の声に呼ばれて。  それから巨大な門が少しずつ開いていき、隙間からは大量の触手が出口を求めて乱雑に伸び門に絡みついた。そしてついに扉が完全に開き切ると、その奥から我らの神の姿が現れ出たのだった。  何て・・・、何て惨憺たる光景だろうか!   今まで堰き止められていた恐怖と狂気の大波が一気に俺を襲った。そしてその直後、俺は言葉にならない程のおぞましい絶叫を上げ、そのまま気を失ってしまった。
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