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少年は本日の授業を終えて帰宅の途に就いていた。その道中に午後三時半を回り、陽の光が段々と夕焼けの赤へとなりつつある頃、遠くの空に下界を見下ろすデイダラボッチのような暗い入道雲がにゅうと顔を出していることに気がついた。
近所のショッピングモールによってシャッター街と化してしまった学校近くの商店街の中央に至ったところで暗い入道雲よりゴロゴロと雷太鼓のドラミングが聞こえてきた。
少年が「今朝の天気予報は占いと同じでアテにならねぇな」と考えているうちに激しい雨が降り出した。事前のペトリコール臭の予兆すら無い正真正銘のゲリラ豪雨と呼ぶべき夕立である。
これは堪らない。少年は偶然目についた軒先テントに向かって走った。
「ふう、助かった」
少年は軒先テントに身を預けた。シャッターには屋号が書かれてなく、何の店かも分からない。軒先テントの屋根に機関銃の射撃音のような連続した雨粒が叩き続ける。その最中、カメラのフラッシュを思わせる光が少年の目に入った、そして激しい雨粒の音を切り裂く遠雷の響きが耳の中へと入ってくる。
少年の目の前を傘を差した小学生が通り抜けた。横殴りの雨でもないのに傘が役に立たないのか小学生は頭から靴先までずぶ濡れになっていた。雨を歩くに向かないスニーカーから「じゃぼじゃぼ」と言った水音が聞こえてくる、靴下もズボンの裾も水浸しでご愁傷さまとしか言いようがない。その後も少年の目の前を傘を差した色々な人々が通り過ぎて行くが似たようなもの。傘を差していない者に関してはもうお察し、明日風邪を引かないことを祈るのみだ。
すると、少年が身を預ける軒先テントに誰かが入り込んできた。少年はくいと首を動かし横を向いた。
そこにいたのは頭から靴先までずぶ濡れの少女だった。その小脇にはビニール袋に包まれたカバンを抱えている。長い髪は雨に濡れてべったりと首や頬に貼り付き、夏服のブラウスも上半身にべったりと貼り付き下着が透けて見える悲惨なもの、スカートも両腿にビッタリと吸い付き真空パックをかけたようになっていた。黒光りするローファーも水浸しで足を僅かに動かすだけで雨水が溢れるぐらいだった。少年は失礼にも「妖怪濡れ女だーッ!」と叫びそうになってしまった。
少年は「うわ、悲惨」と、思いながら少女をじっと眺めていた。すると、少女は頬に雨で濡れて貼り付いた髪の毛を軽く撫でて払った。そこにあった顔は少年と同じクラスの少女だった。少女は急な雨に怒り気味なのか仏頂面だったが、少年の存在に気が付き、頬を緩めて柔和な表情へと変える。
「あ、確か同じクラスの…… ゴメン、あたし男子とあまり話しないから名前覚えてないんだ」
少年と少女は高等学校に入ってからの二年間同じクラスであるが、これが初めての会話だった。少年はいきなり「名前を覚えてない」と宣告するとはお里が知れる女だと思ったが、冷静を装う。だが、少年も少女の名前は覚えていない。お互い様である。
とりあえずこの妖怪濡れ女状態をどうにかしろよと思いながらカバンからタオルを出し、少女に手渡した。
「使って。今日は一回も使ってないから綺麗だよ、安心して。流石に野郎の汗まみれのタオルは使いたくないでしょ?」
「あ、ありがとう……」
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