たまには占いを信じてみよう

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 少女はビニール袋に包まれたカバンを地面に置いた後、タオルで頭を拭いていく。妖怪濡れ女のように顔にベッタリと貼り付いていた髪が若干マシになったところで、首を拭きにかかった。少女の細い首筋が雨に濡れて輝くその様にドキドキ悶々とした感情を覚えた少年は目が離せなくなる。少女からすれば極めて気持ちの悪い目線であるが、体を拭くことに夢中になっており気が付かない。それは少年にとって幸運であった。 気が付かれていれば間違いなく「キモっ!」と非情な言葉を投げかけられていただろう。 首から上を拭き終えた少女は次に雨に濡れた上半身を拭き始めた。拭くと言っても、服に染み込んだ雨水をタオルで吸収するために叩きつけるようなものである。ブラウスが濡れて少女の体にピッタリと貼り付く、それ故に桜色(桃色かもしれない)の下着がうっすらと透けて見えた。この十七年間女日照りの人生を送っていた少年には刺激が強く、思わず体ごと目線を背けてしまった。 その顔はこの夕立が終わった後に訪れると思われる夕日のように真っ赤であった。  少女は頭からブラウスを拭き終えたところで少年に語りかけた。 「今日の天気予報、大外れだよね。やっぱりお天気お姉さんより、ちゃんとした気象予報士が天気予報やるべきよね」 これまで女子とロクに話したことがない少年はどう返事をすれば良いのかが分からない。 脳内でロクに考えず、反射的に普段友人と話すような皮肉屋気味な返答をしてしまった。 「お天気お姉さんも、気象予報士も、気象庁が言う天気の流れを言うだけなんだけどね。今は気象庁もスパコン使ってるから正確なデータを言ってくれるはずだよ。ただ、気象予報士は『資格』を持ってて『天気図』あ…… 天気予報の地図とか見てると出てくるマークね。あれが自分で分かるからちょっとした予想を付け加えるだけなんだ。だからどっちも大差はないよ」 「……」 少女は呆然としていた。しまった、クドクドと喋り過ぎて「引かれた」かもしれない…… ここは何も考えずに気象予報士を持ち上げておいた方が吉だったか。少年は後悔した。 「ふーん、そうなんだ。でもさ、このゲリラ豪雨を予想出来ないスパコンもヤバくない?」 この「ヤバい」はどちらの意味なんだろうか? 危ないと言う意味なんだろうか、それともカッコいいと言う意味なんだろうか、今濡れている現状と「予想できない」と言っていることから「危ない」の意味を拡大解釈して「ゲリラ豪雨を予想できない程度の性能で危ない」と言う意味だろう。少年は肯定しておくことにした。 「まぁねぇ、朝の天気予報の段階で『夕方に夕立が来ます』ぐらいは言って欲しいもんだよね」 「そうそう! 今日なんか『今日一日晴れ』って言ってたよね! 降水確率10%でも言うよね。せめて晴れ時々雨とか言ってくれればいいのに」 会話が繋がった。実際のゲリラ豪雨や夕立は急に集まる積乱雲から発生するもので30分前からじゃないとスーパーコンピューターでも予想は不可能と少年は何かのニュースで見ていた。つまり、朝の天気予報ではゲリラ豪雨の予想は不可能なのである。それを言ったところで場を捏ねくり回すことにしかならないと感じていた少年は笑顔でコクリと頷き、肯定するのであった。雄弁は銀沈黙は金と言った感じである。 少女はすっかり水浸しとなったタオルを搾り、水に濡れたスカートを拭きにかかる。 その瞬間、この地を水で飲み込まん程に降り注いでいた夕立はシャワーの蛇口を締めるかのようにピタリと止んでしまった。
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