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「通り雨だったね。本当にスーってこの辺りを雨雲が過ぎ去っただけ」
少女は不満気な表情を浮かべながら雨水で黒光りするローファーの片一方を手に持った。ローファーからコップをひっくり返したような水が溢れ出る。
それを右・左と二回。
「うわっ! 最悪。家帰って新聞紙入れとかないと。明日どうしようかな…… ローファーの予備って買ってないんだよね。ローファーなんて予備買うもんじゃないし、ツイてないなぁ」
「ここまで濡れるとドライヤーで乾かしてもしっとり感は明日一日は残っちゃうかも」
「うん…… 靴下二重で誤魔化す」
少女はローファーを履き、一歩を踏み出した。インソールに染み込んだ雨水が溢れ出し濡れきった靴下を更に湿らせにかかる。
「うわ、気持ち悪い」
「裸足よりマシじゃない? まだそこらに水溜りもあるし、家まで頑張って歩くしか無いね?」
「ぶっちゃけありえない! どうせだったら今日のラッキーアイテム傘にしといてくれればよかったのに! 何でビニール袋なのよ!」
「え? ラッキーアイテムって?」
「今日の朝の占いよ。ラサラ・ササラって占い師、最近良く当たるって評判なんだよ、あたし、毎日観てる」
名前間違ってるよ! サラサ・ラサラだよ! 毎日観てると言う割に名前が間違ってるのは正直どうなんだろうか。自分の星座が一位と上位と最下位以外の順位が来たら興味なしで流し見程度なんだろうな…… 少年はそんなことを考えながら苦笑いを返した。
「いやあ、今日の天気予報一日晴れだよ。それでラッキーアイテム傘なんてやったら天気予報のメンツが丸つぶれじゃん」
「スパコンで天気予報するより、ササラ・ササラが下駄占いでもした方が当たりそう。あーした天気になぁれ!」
少女はローファーを下駄占いのように飛ばした。ローファーの行き先は水溜りの中だった。向きは横、明日は曇りと言う結果が出てしまった。
少年は少女を白い目で眺めながら「また名前変わってるよ!」と心の中でツッコミを入れた。
「きゃあああーッ! あたしの靴がぁーッ! やっぱり今日の占い最下位! 一日ツイてないのマジだったーッ! 最悪ッ! あの占い師許さない!」
体を夕立で濡らしたのはともかくとして、ローファーに関しては自業自得である。占い師、サラサ・ラサラも文句を言われるのは不条理としか言いようがない。
少年は先程と同じ苦笑いをしながら軽くフォローを入れた。
「ほら、ラッキーアイテムがビニール袋だったじゃん? ビニール袋にカバン入れたおかげで教科書とか濡れなかったでしょ? それがきっとラッキーだったんだよ!」
すると、少女はビニール袋からカバンを出し、中身を少年に見せつけた。
ペンケース、油取り紙、鏡、化粧セット、イヤホン、スマートフォン、モバイルバッテリー…… 勉強道具と呼べるものはペンケースのみであった。
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