第三話:・・できる・・のかな・・

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 そうして・・ 翌日から朝の走り込みは一旦終了となって、その代わりに、朝練では、基礎練習を行い、放課後の部活では基礎練習の続きを行ってから、今日からは教則本の曲の練習と、ゴールデンウィークまでに仕上げなくちゃならない四曲の選曲がてらの練習が始まった。 演奏曲なんだけど、今の私たちにとって、それはいわゆるエチュード(練習曲)としての側面もある。 今日もいけずながらも、懇切丁寧に指導してくれている嶋田先生からは、 「ハナサキビワさん、 きみの音程も表現も良いのだけど、単独で演奏することに慣れているように思う。 だから、合わせる時に合わせようとしすぎて、本当の良さが発揮できなくて、ちょっと暴走してしまう感があるね。 その点に注意してみて。」 とビワへの指導が入っていた。 ビワは、「ハイ!」と気合いの入ったトーンで言いつつ、同時にまっすぐな視線を向けてそれに応えていた。 「カタギハラカナコさん、 これはきっときみの性格なのかもしれないけど、あまり自分を見せるのが好きじゃないというか、苦手なのかな? 演奏は確かに上手くなっているし、『コピーする』という部分では申し分ないけど、そこが音の硬さに繋がっているように思う。 大切なのは、技術だけじゃない。 そこには、音楽を愛して、それを自分の音で表現するだけの努力が必要だよ。」 そっか・・ 確かに・・ 嶋田先生に核心を突かれたようで、少し動揺していたんだけど、今はそんなことでくじけるわけにはいかない。 「ハイ!」 と、私も嶋田先生に応えた。
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