第三話:・・できる・・のかな・・

56/58
前へ
/505ページ
次へ
ふと、黒板の上の、額に入っている墨で書かれた文字を見ていた。 「暖かい『音』をあなたに。」 「優しい『音』をあなたに。」 「美しい『音』をあなたに。」 ・・私は、それを届けられるようになるのだろうか・・。 私のその様子を見ていた嶋田先生は、どこか懐かしいものを見るような表情を浮かべて、 「この標語、かつての部長が考えたものなんだって。 スゥィート・メイプル・ムジク。 時にはゴスロリファッションで身を固めて、クラシックをはじめとしたあらゆる楽曲を、超絶技巧を交えながら演奏する少数精鋭音楽隊。 そうして、自分達のスタイルを他とは違う独自のものにしていた。 どんなことでもそうだけど、苦労せずに上手くなろうなんて、そんなことは無理だ。 世の中にはこうすればうまく行く。 こうすれば大丈夫とか。 そう言う見出しで目を引くものがたくさんあって、その内容もいろいろあるけど。 でも、それは、そう言ったものに頼るのではなくて、自分の心で答えを出さなきゃダメだ。 そして、たったひとりでもやり抜くほどの精神力がないと・・ 彼女達にも色々あったんだろうけど、それでもあの人達にとって、音楽は出来て当然だった。 何度も言うようだけど、あれと同じようになるためには、相当の努力が必要だよ。」 と、そう言ってくれていた。 この言葉を聞いて、私は確信した。 嶋田先生は、かつてのスゥィート・メイプル・ムジクを高く評価していているし、同時にそれであり続けることの厳しさも知ってるんだと。 そして、かつてのスゥィート・メイプル・ムジクのことを、きっとすごく好きなんだと。
/505ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加