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はじまり
私にとって音楽は、どちらかと言うと聴く側の方だったから、あの時までは特別なものでもなんでもないものだった。
ただ、私はたまたま、本当にたまたまなんだけど、音楽に対する感覚が良いみたい。
そして、小さい頃に勧められるまま、押し付けられるように買ってもらったフルートは、ケースを開けてキラキラしているその姿を何度か見たことがあったけど、ほとんど手付かずのまま、ずっとクローゼットに仕舞っておいたままだった。
あれが小児用のU字管フルートだったのなら吹けたのかな・・。
ストレートのフルートは、あの時の私には長くて構えられなかったんだよね。
それでも、小学生になった頃に聴いたあの音が、この楽器で奏でられる色が今の私をたまらなく急き立てて、
『いまだよ!』
なんて言っているように感じる。
まるで、王子さまのキスで永い眠りから目覚めることを待っている、あのお姫様のようだ。
それでも、目覚めるには、まだ時間が必要だったみたい。
だから、高校入学を目前としていた春のある日に、私はクローゼットからそれを取り出したんだよね。
私にはなんでもない世界だと思っていたのに、それは大変に奥の深い世界で、安易になんでもないなんて事を言えない世界なんだって知ることになった。
でも、それが私の進む道だったんだって今は思ってる。
私の生き方は、あの時に決定的に運命付けられた。
いつかきっと・・
いつかきっと、私の手があの人に届くように願って・・。
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