魅せられちゃってください~another one~

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この仔犬を飼ってくれたのも僕達の為だとわかっている。 ここでティンを飼うとなれば二人で協力しないと世話をできないってことも。 秘書さんにはここへの出入りはさせないと琥太郎さんは言った。 この仔は僕達二人で育てたいと思っていることも伝わってくる。 もう腹を括るしかないのかもしれないな…… いつまでも姉ちゃんと暮らすわけもいかないし、そろそろ身の振り方も考えないと思ってはいた。 姉ちゃん伝授の倹約法で、ある程度の蓄えも出来たし、部屋を借りることも考えてはいた。 テーブルを挟み、足元で動き始めたティンを愛おしいそうに見つめる琥太郎さんを見つめる。 僕を必要としてくれることも充分過ぎるくらいわかっている。琥太郎さんの態度で一緒にいたいってことは、伝わってはいるんだけど…… 以前一緒に住んでいた時とは状況が違うのに、どうしても一歩が踏み出せないのは僕の勇気がないからだ。 はいそれじゃ……なんて簡単に返事ができないのは一緒に住むことへのトラウマなのかもしれない。 男同士で住むことで世の中でのリスクだってある。地位のある琥太郎さんならなおのこと。 僕の存在が足枷のようになるのは嫌だ。もう離れられないことは身をもってわかってはいるのに…… 「どうした?」 考え込んでいる僕の様子に心配そうに琥太郎さんが見つめる。 そうなんだよな……この悩んでいる事を相談すべきなんだ。結論が出ないのなら二人で考える事なんだとわかっている。 「琥太郎さん……僕はティンと琥太郎さんと一緒にいたいって思ってるんですけど……どうしてか一歩踏み出すのが怖いんです……」 堪えきれずに零してしまった後悔は、大好きな琥太郎さんを見ることも出来ず、掌で覆ったカップのゆらゆら揺れる液体を見ていた。 「わかってるよ、隼人が悩んでいるのは。何も考えずただ好きだから、一緒にいたいから……一緒に住んでもらえないかなって、浅はかな考えで行動してるんだよ俺だって。隼人とこれからずっと一緒にいたい。それだけなんだ。子供みたいだろ?」 苦笑を浮かべながら、僕の隣に腰を下ろした。
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