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身の回りのお世話も……その言葉が強調されたような気がした。
琥太郎さんは恋人の僕がいると言っても独身だし、忙しい人だから秘書さんがお世話するのもわかる。
だけど僕の意識では会社の人に身の回りの世話をしてもらうなんて……と思ってしまった。
それだけ信頼してる人なんだろうけど、目の前で冷蔵庫を開け、食材を詰め込んでいる姿を見たらモヤモヤしてしまう。
それでも、離れていた間に琥太郎さんの身辺が変わっていて、そこにポンと現れた僕はこの人にしたら違和感なんだろうけど。
恋人だと紹介されたのが男なら尚更だと秘書さんの態度に自分を納得させていた。
しばらくして秘書さんが帰った後、琥太郎さんが朝食を作ってくれた。
そう。秘書さんが買ってきた食材で。それだけでもなんだかモヤモヤしている僕は箸が進まなかった。
「どうした?食欲ないのか?」
顔を上げると琥太郎さんと目が合い、どことなく視線を彷徨わせた。
気持ちを疑ってるとかそんなことじゃない。
愛されていることもわかっている。また付き合い始めて以前とは違うのは仕方がないと思っている。
そして必要以上に気を遣われていることも。曖昧な笑みを浮かべたがこの気持ちを言葉には出来なかった。
「ううん、大丈夫。今日はこれからどうします?」
話をすり替え気分を上げようとした。そんなことはお見通しなんだろうか。ふっと溜息を吐いた琥太郎さんは少し苦しそうな笑みを浮かべた。
「前に言っていた犬を見に行こうと思ってる。どうかな?」
以前広い庭なんだから犬でも買えば?と話したことを思い出した。
「お世話、大変じゃないですか?」
忙しい琥太郎さんが世話をするのは難しく思える。自分のことだって……秘書さんがしているのに……
また、秘書さんに頼むのかな……
そんなことが頭をよぎり、重い気持ちに引き戻される。
「隼人がいてくれたら、犬を飼ってもいいと思うんだけど。ここで、一緒に世話をしてくれないか?」
ここに住んでいる訳でもないのに毎日犬の世話が出来るわけがない。
僕のここに来た時は世話は出来るけど、それは週末だけなんだ。
じゃあ、平日は琥太郎さんがみることになる。
どう考えても秘書さんの影がチラつく。
じっと見つめた瞳は優しくて僕を必要としてくれている。それはわかっているんだけど……
僕は琥太郎さんを独り占めしたい。誰にも見せたくなくて触らせたくない。
ふつふつと湧くこの感情は正しく嫉妬の塊なんだけど。
どんどん我儘になっていくようで、そんな感情のコントロールが出来なくなっていた。
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