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『思ってることちゃんと言葉にして言わないと伝わらないよ』
誰だって心の中までわかるわけがない。だけど思ってることを口にするのは勇気がいるんだ。
その言葉で誰か傷つくかもしれないし苦しむかもしれない。
小心者の僕にはハードルが高いんだよ。
でも、もし、言わないことで駄目になってしまうことがあるなら……
「琥太郎さん、ごめんなさい……」
「なんで謝るんだ? 悪いのは俺のほうだろ。隼人の気持ちを考えなかった俺が悪い。ごめんな……俺さ、隼人がまたこうやってここにいてくれることに舞い上がってるんだ。もう離れたくない気持ちが強いくせに、傷つけることばかりしてしまう。だから、そうやって、なんでも言って?それは違うって叱ってくれないか?」
不安そうな顔色を見せる。なんでも完璧にこなす琥太郎さんの心の中の柔らかい部分に触れている気がした。
弱音なんて吐かない、いや吐けない立場の人が、誰にも見せたくない部分を僕に晒せ出している。
「叱るなんて……僕も足りないところばかりだから……でも……なんでも言えるようになりたい。もう前みたいに気持ち殺して苦しくて悲しい想いはしたくない……さっきみたいに……僕も、声上げて笑い合えるようになりたいよ」
お互い気を使ってばかりじゃ、五年前のようにすれ違ってしまう。
何に笑って何に悲しんでいるのか知らないなんてそんなのは嫌だ。もう離れたくないよ。琥太郎さんのそばにいたい。
「なんでも言わないといけないな。何考えてるのかわからないほど不安は大きくなるからな。それに……」
「それに?」
「それに、俺はまだ隼人の気持ちを探ろうとしているんだ。また離れていってしまうんじゃないかって……不安で……何かで繋ぎ止めることばっかり考えてた」
『ほら〜だから言ったじゃん』って姉ちゃんの声が聞こえた気がした。
琥太郎さんがそんなことを考えてたなんて思いもしなかった。
いつも大きな包容力と、焦りを見せない優雅ともいえる琥太郎さんの身のこなしから、そんなことを考えてるなんて誰が思うだろう。
こんな僕をなにかで繋ぎ止めようとして悩んでたなんて……
こんな平凡な僕にだよ?
何もかも完璧な人なんていない。琥太郎さんだって生身の人間なんだ。
不安や悲しみ苦しみ……持ってることは当たり前なのに、僕はそんなことも考えてなかった。
なら、その全てを取り除けるのは僕しかいない。
そう、言葉にして伝えなきゃ……
「琥太郎さん……僕は琥太郎さんがいれば他に欲しいものなんてないんだよ。僕はずっとずっと、一緒にいたい。だから、なんでも思ってること話すようにする。琥太郎さんもね?」
見つめた先の瞳はゆらゆらと揺れていた。
逞しい腕の中に抱きしめてくれた琥太郎さんは何度も何度も頷いていた。
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