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それから僕達はペットショップに向かった。
琥太郎さんはあの広い庭で犬を遊ばせている僕を想像していたんだと話してくれた。
「隼人は嬉しそうに犬と遊んでいるのを思い浮かべると、すぐにでも飼いたいって思ってたんだよなぁ。でも二人で買いに行くのも楽しみだしさ、それだけを楽しみに休みまで乗り切った感じだよ」
嬉しそうに笑顔を見せた琥太郎さんは、横目で優しく微笑んで繋いだ手の甲を指先で撫でた。
ゆっくりと赤信号で停まった途端、いきなり乗り出した身体が僕の唇と重なった。
「こ、琥太郎さん!外!!」
触れるだけのキスは一瞬で離れた。だけど目の前の横断歩道を見れば、女性が口元を押さえたり、見て見ぬ振りをして通り過ぎていく人達の視線が痛かった。
「いいさ、みたい奴は見ればいい。俺の隼人だって見せびらかしたいんだよ」
甘い笑みを見せ運転を再開した琥太郎さんは呟いた。
見せびらかしたいって……恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちがぐちゃぐちゃになって僕は掌で顔を覆った。
はははっと声を上げて琥太郎さんが笑った。そう、さっき秘書さんと笑ってたみたいに。
僕は指の隙間からその表情を見てとてつもなく胸が熱くなった。
僕達は本当の恋人同士になれたみたいで嬉しくて堪らなかった。
そしてまた、運転席に連れて行った僕の手を自分の腿に乗せた。
「俺達は恋人なんだから、この空間で何しようと誰にも何も言わせないさ」
言わないだろうし、言うこともないだろうと思ったけど、そうやって独占欲を見せてくれることが嬉しくて頬が緩む。
「そういうのは……家で……」
「ははっ、俺はしたい時にするよ。見境なしにはしないけどな」
笑う琥太郎さんを横目に、流れ出した景色に目をやりながら、込み上げてくる嬉し涙を隠した。
こんな風にまた琥太郎さんが側にいてくれる嬉しい現実は、じわじわと僕の中に染み込んでいく。
繋がれた手から琥太郎さんの温もりが伝わって更に涙を誘った。
暫く走ると幹線道路の脇に大きく書かれたペットショップの文字が見え、スルリと車は駐車場に入って行った。
いつものように助手席のドアを開けてくれて、施錠をした琥太郎さんの後ろ姿を見つめてながら着いていく。
何度も振り返り微笑んで、手を差し出して『繋ぐ?』とでも言いたげな仕草に真っ赤になった僕は小さく頭を振った。
いい年をした男二人が手を繋いでペットショップに入るとか……そんな勇気は僕にはなかった。
外じゃなきゃずっと繋いでいたいと思う気持ちは琥太郎さんには秘密だけど。
ショップに入ると積み重なったガラスの中で可愛い仔犬達が動き回っている。色んな犬種の仔犬に目を奪われながら一つひとつ覗いていく。
すると琥太郎さんが何やら店員さんと話し、裏に消えたその人は小さな真っ白な仔犬を抱かえ僕の前に現れた。
真ん丸な黒目。フワフワとしたその姿に釘ずけになった僕は、無意識に手を伸ばしていた。
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