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早速ペットショップで購入した仔犬のゲージをセッティングし、諸々を準備し終えた。
その間琥太郎さんはずっと仔犬を抱かえ撫で回していたんだけど。甘い表情が可愛くてなんだか頬が緩みっぱなしだった僕。
「隼人、仔犬の名前考えなきゃな」
嬉しそうに仔犬を抱いた彼はそう言い、僕の腰を引き寄せた。手から手へ移った仔犬を抱きしめて、この子が雌犬だからと思考を巡らせた。
「……ティンってどうですか?妖精みたいでフアフアしてて似合ってると思うんですけど……」
見上げた琥太郎さんの柔らかく微笑む顔が間近にあって一瞬身体を引こうとしたが、なんのことはない引き戻されて軽く唇が触れた。
「可愛いな。それにしよう、な、ティン」
可愛い愛称で仔犬の名前を口にするのに、なぜか僕の顔を見ながらそう言う琥太郎さんは嬉しそうに笑った。
その意図がわからない僕は、内心首を傾げたが気にしてもわからない。
そんなことより、早く早くと気持ちが急き、庭に出て仔犬を芝生に降ろした。
ところがティンはブルブルと震え動こうとしない。数歩前に出た僕は座り込んで仔犬を呼んだ。
「ティン!おいで!」
ビクビクと少しずつ前進してくるその姿は新しい家への恐怖からくるんだろうか。そう思えばこの仔が楽しく走り回れるように早くして何とかしてやりたいと僕の中の母性的なものが働く。
恐る恐るでも辿り着いたティンを抱きしめた。
「ティン、頑張ったね」
怖いながらも僕の元にやってきたティンはクゥンと声を上げた。
「可愛いな……」
近寄った琥太郎さんは僕とティンを一緒に抱きしめてきた。
「可愛いですよね、ほんと。でもなんで僕まで抱きしめるんですか?」
「どっちも可愛くてさ、どうにかなりそうだよ」
さっき僕に向かって可愛いと言った意味がなんとなくわかり、火がついたように頬が熱くなる。
「なっ、僕は可愛くなんてないですよ…もう四捨五入したらアラサーです…」
「そんなことを言ったら俺はどうなるんだ。歳なんて関係なく隼人は可愛いよ。出会った頃から可愛くてますます綺麗になってさ、堪らないよ」
見つめ合った僕たちの間で伸びをしたティンが顎をペロリと舐めた。擽ったくて顔を見ればつぶらな瞳が僕を見つめる。
「さあ、中に入ってコーヒーでも飲もう。ティンには牛乳を入れてやるからな」
ティンを優しく撫でた琥太郎さんに連れられてリビングへと戻っていく。
その背中を見ながらまたこうやって愛されていく事にじんわりと胸が熱くなった。
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