【猫屋は奇妙な店主と】

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【猫屋は奇妙な店主と】

 東京、神田神保町――  当時、小川町であったころ大火を受け、その焼け跡に岩波茂雄が古書店を開いたところから、本の街としての歴史を歩むこととなった。  そして今や世界屈指の古書街にまで発展したわけだが……この街はなにも本屋だけ、というわけではない。  カレーに中華、カフェに天ぷら屋などの老舗飲食店が軒を連ね、日夜訪れる食通達を唸らせている。  そんな由緒ある街、神保町。  今日は油雲が立ち上り、今にも大量の雨が降り出さんと気配を醸していた。  そんな不穏な空を見上げて様子を窺っていた本屋が路面に広げたものをしまいビニールをかけ始める。すると、それに合わせるように他の店でも、雨支度が始められていった。  それから間も無くのこと……バケツをひっくり返したような、とはよく言ったものでその通りの夕立が界隈の景色を真っ白に染め上げていく。  店や軒先きへバタバタと逃げ込む人々が目立つなか、参考書を買いに訪れていた大学生の颯斗(はやと)もまた、駆け足で雨宿り場所を探し始めた。
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