じいちゃんちの雨もよう

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たらたら……たらたらたら。ふとんの中でそんな連続音が聞こえた。 ちぇっ、今日こそ外は雨か。いや、雨……とはちょっとちがう音な気もする。 「雨っていってもいろいろあるし」 つい洗面所でひとりごと言ったら、じいちゃんに聞かれてた。 「降ったり止んだり。長い時間そうくり返すのを長雨という。長雨とは宿雨(しゅくう)霖雨(りんう)とも言って――」 またはじまった……いんてりは話が長い。ゴチャゴチャするむつかしいことは、ハリラ~とボクの耳を通りぬけていく。 ブー。今日はせみ取りに行こうと思ったのに。 「行ってこい。健康な子どもが家にこもってるもんじゃない」 いんてりのくせにアウトドアなじいちゃんに追い出された。だって雨――あれ? 降ってないじゃん。せみども、しゃわしゃわ鳴いてるじゃん。 (あみ)、網。物置のドアのヘンなクセは毎年来てるからコツはおぼえた。一発であけると、じいちゃんお手製のやつがちゃーんと立てかけてあった。 待ってろよ、せみー。 「せみ取りに行くなら、あっちの林だな」 じいちゃんも、麦わら帽をかぶって出てきた。え、いっしょに行くってこと? 「奈々子(ななこ)さんちに、これ届けてって言われててな」 じいちゃんは、バラもようの紙で包まれた箱を手にしていた。たぶんどっかのデパートの包装紙(ほうそうし)の再利用。ばあちゃんはそういうのをピシーッとたたんで取っておくから。 奈々子さんというのは、林向こうのご近所さん。ばあちゃんの昔からの仲良しさんだ。 「ばあちゃんが行かないの?」 「いってらっしゃーい!」 あれ、また声だけ。きのう来たときほめてくれてから、あんまりすがたを見ない。 いつもなら「これ食べなさい。あれも食べていいのよ」とやたらにお菓子をならべてきたり(これがうれしい。うちじゃママに止められてるからさ)、「ねえねえ、こんなワンピースぬったのよ。ほら、拓ちゃんとおそろい」なんてヒマワリもようのシャツをむりやり着せられたりする(学校じゃ見せられないけど、着やすくてヘビロテになっちゃうんだな)。 そうやって、いつもはボクの後ろや前をウロウロしてはニコニコかまってくれるばあちゃんが、今年はどうしたのかな。 「そのバラの箱、何?」 「クレームどれみふぁ、とかって。ばあちゃんお手製の」 「クレームブリュレだろ」 じいちゃんが名前をおぼえられないばあちゃんの作るそれは、すんごくおいしい。クレームブリュレだけじゃなく、料理もお菓子もささっと魔法(まほう)みたいにできちゃうんだ。それがいつも多すぎちゃうから仲良しにくばる。おすそわけっていうんだろ。 で、そのじいちゃんが持ってる箱のバラの包み紙のはしっこに、「つちみみとんら」とナナメった印字が。 ほえ? またもナゾの暗号。……何だろう。
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