じいちゃんちの雨もよう

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「ね、おじいさん。奈々子さん、どうだった?」 帰ってきたらようやくばあちゃんのすがたが見れた。そして、も一つ作ってあったクレームブリュレを出してくれた。この、表面をスプーンでパリパリ、ってやる儀式(ぎしき)がたまらない。 「奈々子さん? レインドロップス()いてたよ。な、拓実(たくみ)」 「ん? あれレインドロップスっていう曲なの?」 ボクはめいっぱいほおばりながら言った。 「そうじゃなくて。奈々子さん、あれ食べておいしいって言った?」 奈々子さんは若いころピアノの先生をしてたから、行くといつだって何か弾いている。もうピアノ教室はやめたみたいだけど、自分では今でも一日中弾いてるらしい。 「ピアノは指を使うからボケないのよ。やっぱり若いうちからそういう技を身につけておくべきよね」 ってばあちゃんに言ったんだって。 「何よ、あの上から目線。私だってまだまだボケたりするもんですかっ! それでどうなの。おいしいって言ったの、言わないの?」 ばあちゃんはクレームブリュレにグサリとフォークをつきさした。……ママもばあちゃんも、そういうの、ぎょうぎ悪いからダメ、ってボクには言うのになあ。 じいちゃんがぬき足さし足、シレッといなくなろうとしている。 「おじいさん! 聞いてるの?」 ばあちゃんのきげんが悪くなる。 「い……言った……ような、気がする。なあ拓実」 「……えーと」 ばあちゃんが、ボクの空っぽのと、まだちょっと残っているじいちゃんの皿をピャッと下げ、ガッチャガッチャと洗いはじめた。 ボクとじいちゃんはヒソヒソする。 「……奈々子さんとばあちゃんて、仲良しなんじゃなかった?」 「同い年だからな……昔から何かとはり合っちゃってるんだよ。子どもの年も孫の数も同じだろ。今じゃどっちが若く見えるかとか健康診断(けんこうしんだん)でAだとかBだとか。こっちの身がもたんわ」 ボクは肩をすくめた。アクティブパワフルなじいちゃんの体力でも、もたなかったりすることあるのか。 ……てか、ママってばあちゃん()なんだな。ママ友相手にそういうシーン、ボクもよくソウグウするもん。ヘタに向こうをほめたりすると大へん。だから、ボクもパパも「ママってすごい!」とほめまくるんだけどね。そのつみ重ねが生きる。 「このクレームブリュレをおいしいって言わない人、いないよ」とボクはフォロー。奈々子さんはガツガツ食べてたけど、意地(いじ)でも「おいしい」は言うもんかって感じだったことはふせておくのがミソ。で、ばあちゃんは笑みになり、残ったブリュレを箱にまた包みなおした。 x@yd) その包み紙のヘンな位置(いち)にまた(れい)の印字。 ばあちゃん、それ何? て聞く前に、「やだこんな時間! 出かけなきゃ」とばあちゃんはバタバタしたくをはじめた。 どこに?
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