1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、おじいさん。奈々子さん、どうだった?」
帰ってきたらようやくばあちゃんのすがたが見れた。そして、も一つ作ってあったクレームブリュレを出してくれた。この、表面をスプーンでパリパリ、ってやる儀式がたまらない。
「奈々子さん? レインドロップス弾いてたよ。な、拓実」
「ん? あれレインドロップスっていう曲なの?」
ボクはめいっぱいほおばりながら言った。
「そうじゃなくて。奈々子さん、あれ食べておいしいって言った?」
奈々子さんは若いころピアノの先生をしてたから、行くといつだって何か弾いている。もうピアノ教室はやめたみたいだけど、自分では今でも一日中弾いてるらしい。
「ピアノは指を使うからボケないのよ。やっぱり若いうちからそういう技を身につけておくべきよね」
ってばあちゃんに言ったんだって。
「何よ、あの上から目線。私だってまだまだボケたりするもんですかっ! それでどうなの。おいしいって言ったの、言わないの?」
ばあちゃんはクレームブリュレにグサリとフォークをつきさした。……ママもばあちゃんも、そういうの、ぎょうぎ悪いからダメ、ってボクには言うのになあ。
じいちゃんがぬき足さし足、シレッといなくなろうとしている。
「おじいさん! 聞いてるの?」
ばあちゃんのきげんが悪くなる。
「い……言った……ような、気がする。なあ拓実」
「……えーと」
ばあちゃんが、ボクの空っぽのと、まだちょっと残っているじいちゃんの皿をピャッと下げ、ガッチャガッチャと洗いはじめた。
ボクとじいちゃんはヒソヒソする。
「……奈々子さんとばあちゃんて、仲良しなんじゃなかった?」
「同い年だからな……昔から何かとはり合っちゃってるんだよ。子どもの年も孫の数も同じだろ。今じゃどっちが若く見えるかとか健康診断でAだとかBだとか。こっちの身がもたんわ」
ボクは肩をすくめた。アクティブパワフルなじいちゃんの体力でも、もたなかったりすることあるのか。
……てか、ママってばあちゃん似なんだな。ママ友相手にそういうシーン、ボクもよくソウグウするもん。ヘタに向こうをほめたりすると大へん。だから、ボクもパパも「ママってすごい!」とほめまくるんだけどね。そのつみ重ねが生きる。
「このクレームブリュレをおいしいって言わない人、いないよ」とボクはフォロー。奈々子さんはガツガツ食べてたけど、意地でも「おいしい」は言うもんかって感じだったことはふせておくのがミソ。で、ばあちゃんは笑みになり、残ったブリュレを箱にまた包みなおした。
x@yd)
その包み紙のヘンな位置にまた例の印字。
ばあちゃん、それ何?
て聞く前に、「やだこんな時間! 出かけなきゃ」とばあちゃんはバタバタしたくをはじめた。
どこに?
最初のコメントを投稿しよう!