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そんなことがあってから。私は、彼女を家に呼ぶのを控えるようになったのだった。仮に呼んでも、リビングでゲームをするのはなんとなく避けた。明らかに亜樹ちゃんが怖がっていたからというのもある。
リビングの隅に立っているという老人が、私の祖父なのか、あるいはまったく知らない赤の他人なのかもわからず。私もなんとなく恐くて両親に尋ねることができないまま、数年が経過することとなった。中学校になると同時に亜樹ちゃんは親の都合で遠くに行ってしまい、以降はメールと年賀状だけの関係が続いている。
そう、私が“リビングのすみっこ”について思い出したのも。彼女がメールでふと、小学生の頃に交わした会話に触れてきたからだった。
『梨子ちゃん、今でもあの家に住んでるの?リビングは、そのまま?』
考えないようにしていたこと。いつの間にか、忘れていたこと。
私にはまったく見えないし、彼女が私を怖がらせようとしているだけかもしれないと思って無視してきたことを思い出した。だからこそだろう。私は笑い話にしてしまいたくて、訊いてしまったのだ。
「お母さんさー、この家ボロいボロいって言うのに、建て替えたりしないの?」
この時、私は中学三年生。多少ものを考えられる年にはなっていたのに、何故思い至らなかったのだろう。
古い家だと言いながら、老朽化が怖いと口にしながら、お金もあるのに一向に口ばっかりで結局リフォームしようとしない両親。それには何か、大きな理由があるかもしれないなんて。
「建て直すのは無理でも、リフォームくらいした方がいいんじゃない?雨漏りする時もあるし。ていうか、すっごいボロい家だから壁に変なもん埋まってるかもよ?そこのリビングのはしっことかさ」
空気が変わったことに、私は気づけなかったのだ。
「昔仲良かった友達が言ってたんだよねー。そこのすみっこに老人の幽霊が立っててこっち睨んでるとか。隣がお墓だからかな」
ああ、何も知らないフリをしていれば良かったのか。
「梨子!」
母は突然走ってきて、私の両肩を掴んで言ったのだった。
「あ、あんた何で知ってるの、そこの隅に……あ、あたしたちがおじいちゃんの遺体を埋めたこと!友達に言ったの!?ねえ!?」
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