すみ、すみ、すみ。

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すみ、すみ、すみ。

 家の隣が墓場だと、土地代が安くなるらしい。私がそれを知ったのは、小学生の時にクラスの男子にからかわれたことからだった。 「なあ梨子(りこ)!お前の家、お化け屋敷なんだろ!?」  男子小学生のからかい文句など、そんなものである。彼等に悪意があるのはわかったが、当初私は何故そんな言葉が投げかけられるのかさっぱりわかっていなかった。というのも、一戸建ての自宅の隣が墓場、というのは私にとっては生まれた時から当たり前に存在する環境であったがためである。私が生まれてすぐ今の場所に引っ越したとのことで、私にとっては物心ついた時から墓場の真横を通って家に帰るのはごくごく普通のことだった。  だから、隣にお墓があると自分の家がお化け屋敷になるだなんて、考えたこともないことであったのである。 「なんでお化け屋敷?お化けなんか見たことないよ」  だから私は、普通に尋ね返した。男子達はそんな私に“嘘つくなよー!”とぎゃぎゃい騒いでくる。 「あんだけでけー墓場があって、何も出ないとかあるわけないし!本当は見えてんのに、何も知らないフリしてんじゃねーの?自分の家にオバケが出るなんて知られたら、近所の人に嫌われるもんな!」 「ほんとに見たことないんだってば。え、家の隣がお墓だとなんかダメなの?」 「知らねーのかよ!家の隣が墓だとみんな嫌なんだぜ。家とか土地の値段も安くなるんだってさ。お前の家ボロいらしいし、よっぽど親に金がなかったんだな!」  私のことをどうこう言われるならともかく、両親を侮辱されるのはいただけない。流石に私はムッとしてしまった。そもそも今の家は、元々母方のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた家だ。おばあちゃんが亡くなった後おじいちゃんが独りぼっちになってしまうので、両親と私の三人が一緒に住むことになったと聞いている。そのおじいちゃんも結局引っ越してすぐ死んでしまったので、今はそのまま家族三人で住み続けているという、それだけのことなのだ。  田舎町だが、駅から極端に遠いわけでもなく、小学校も中学校も近い。子育てするのに、悪くはない環境だったのだろうと私はそう踏んでいる。  まあ要するに。隣が墓場だったのは“偶然”でしかないのだ。なんせ、両親が誰かから購入した家でもないのだから。確かに祖父母の代から住んでいるということもあって築年数はかなり行ってそうではあるし、リフォームしないとダメかしらー、なんてことを母も何年も前から言っていたりするが。断じて、貧乏ということはないはずだ。自慢するほどのことではないが、これでも父は大手銀行に務めているし、母もちょっと大きな印刷会社で事務員をやっているのだから。給料が少ないとは思えない。
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