沢田くんと支配人

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沢田くんと支配人

 沢田くんの別荘は内装もまるで老舗旅館だった。   「おかえりなさいませ、空様」  玄関を抜けると広々としたホールがあり、燕尾服を着た紳士風の男性が私たちを出迎えた。  整髪剤で髪をオールバックに流した素敵な美形さんだ。歳は20代後半から30代かと思われる。 「当別荘の支配人を任されております、矢野と申します。よろしくお願いします」  美しいバリトンボイスで矢野氏は流暢に語る。  柔和な笑顔も好感度が高い。 「陸様からまずはゲストの皆様を大浴場にご案内するよう承っております。どうぞこちらへ」 「本当は風呂より飯の方がいいんだけどなー【腹へったぜー(・Д・)】」  小野田くんが呟くと、矢野氏はさらにニッコリと笑った。  その瞬間、彼の心の声が溢れ出る。 【うっせえわ、このカメ臭ヤロウ。そんだけ汚れてるくせに風呂はいいってどういう神経してんだよ。てめーの足ウラ亀の子たわしでゴシゴシこすったろか】  ええええええええ〜〜〜⁉︎  こ、怖いよ矢野さん!!  虫も殺さないような笑顔の裏でそんなことを考えているなんて⁉︎  そして、小野田くんはやっぱりカメの匂いなんだ?  どうしてみんなカメの匂いを知ってるの?? 「どうかなさいましたか、お嬢様。お顔のお色がお悪いご様子でいらっしゃいますが」  矢野さんが私の顔をじっと見つめる。 【モブ顔……だな。ブスではないけど派手さはない、可もなく不可もない感じ。あんまり印象に残らない顔だから気をつけないと忘れそう。どっか特徴的なところはないか。うーん……よし、絶壁、と】  おいコラ! よし、じゃない!! どこに特徴を見出してるのよまったく!! 「お薬でもお持ちいたしましょうか?【モブ野 絶壁子さん】」  モブ野も絶壁子もやめろ!!ゴ━━━━(# ゚Д゚)━━━━ルァ!!  しまいにゃキレるぞ! 「そうだ、矢野さん。佐藤さん、膝を……【怪我しちゃったんだ、手当てしてあげて。お願い。゚(゚´ω`゚)゚。】」  沢田くんが言うと、矢野さんは「これは大変でございますね!」と大げさに驚き、 【つーかお前も額パックリやられてんじゃん。ウ〜ケ〜る〜m9(^Д^)プギャー】  と心の中で大爆笑。  なんか腹立つー!
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