幸せな夢

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ピピピッ、ピピピッ 体温計が測定完了して知らせる。 服の首元から手を入れ、(わき)に挟んでいる体温計を取って体温を確認する。 38度6分。 「うわっ、大丈夫か? 病院行こうぜ。つれてく…」 先輩が私を抱き上げようとするが、先輩の腕を掴んで止めた。 「先輩、病院はいいです。その代わり、ちょっといいですか?」 「うん、何だ?」 「冷蔵庫の上にある箱と、お水を持って来てもらえますか?」 「分かった」 先輩がキッチンに行っている間に、体温計を入れていた引き出しから薬を取り出す。 「森下、これか?」 20cm四方の箱とグラスに水を入れて、寝室に戻って来た。 「あ、はい。ありがとうございます」 体を起こし箱を受け取って開けると、中には美味しいと評判の『フィナンシェ』が入っている。 1つ取り先輩に差し出す。 「先輩もどうぞ。ここのフィナンシェ美味しいんですよ」 「えっ…あ、あぁ……ふっ、ありがとう」 先輩がフィナンシェを受け取り、私の足元へ腰を下ろす。 箱からもう1つ取り、袋を開けてしっとりとしたフィナンシェをひとくち頬張った。 バターの香りがフワリとして、熱が出ててもまだ味は分かる。 「うん、美味(うま)いな」 「ふふっ、でしょ。あ、じゃ、もう1つどうぞ」 「ふっ、いいよ。森下が食べる為に買って来たんだろ。俺は1つでいいよ」 先輩は微笑んで言う。 差し出した1つを箱に戻しフタを閉めて、薬を1回分出して飲んだ。 「先輩、ありがとうございます。これで寝ていれば大丈夫だと思うので、仕事に」 「いや、今日はもう早退届を出して来た。もう少し、熱が下がるまではいる」 「あ、でも……」 「お前……38度の熱があるんだろ。もしかしたら、また閻魔大王の夢見るんじゃないか?」
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