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ゆっくり目を開けて夢から覚める。
耳に涙が伝って濡れている。
泣いてた……?
『モノクロの夢』の中ではっきりと人物の顔を見たのは、初めてだった。
刀で私を切った男の顔は見たが、目や鼻は見えず口元だけが見えただけで、どんな顔だったのかは分からなかった。
たくみ……私を守ってくれると言った。
もしかしてあの少年が、舟で私を逃がし、約束を交わしたあの青年なのかな?
起き上がって涙を拭き、ヘッドボードに置いている時計を見ると、夕方の4時を指していた。
体はだいぶん楽になって、少しスッキリした。
ベッドから出て寝室のドアを開け、リビングを覗く。
「おぉ、森下、起きて大丈夫なのか?」
「あぁ、先輩…」
先輩はリビングのソファーに座り、ローテーブルにノートパソコンを置き仕事をしていた。
「先輩、すみません。仕事忙しいのに…」
「いや…気にするな。それより、大丈夫か? 熱は?」
「だいぶん体が楽になりました。熱はまだ測ってないけど、下がってると思います」
「そうか、薬が効いたんだな。何か食べるか? 一応、冷蔵庫に入れておいたけど」
「あ、そう言われると……お腹空いてるかも…」
お腹をさすりながら言った。
「ふっ、じゃ、なんか作ってやるよ。キッチン借りるぞ」
「あ、はい…」
先輩が立ち上がりキッチンへ向かう。
「森下はゆっくりソファーに横になってていいよ。まだ無理をするな」
「はい、ありがとうございます」
ソファーで横になって待っていると、先輩がトレーを持ってこちらに来た。
トレーごとローテーブルに置くと、小さな土鍋のフタを取った。
土鍋から湯気が立ち、中を覗くとお粥が入っていて、真ん中に梅干しがのっていた。
梅干しは食べやすく種を取り、刻んで潰して乗せてある。
その横に、トロミのある卵のスープにネギが少し加えられていた。
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