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庭で父と向かい合って、兄とたくみが竹刀を持って素振りをしている。
父が熱心に2人に竹刀の振り方を教えて、父を見て真似をし汗をかきながら稽古している。
私はゆっくりと縁側に行き、正座をしてその様子をずっと見ていた。
父の稽古が終わり、2人が父に頭を下げ「ありがとうございました」と挨拶をすると、庭の端にある井戸に向かい、2人で水を汲み桶に入れて、その場で裸になり水浴びをして汗を流す。
母が手拭と着替えを持って来て、手拭を2人に持って行くよう私に渡した。
私はそれを持って2人の元に走って行くと、2人はスッキリした顔で笑い手拭を受け取って、体を拭き縁側に来て母が持って来た着物に着替えた。
2人が着替えると、3人であの大きな池に遊びに行く。
兄は竿を持ち先に走って行き、たくみは私の手を握って私に合わせて走る。
毎日竹刀を握るたくみの掌は、マメが出来て硬くなっていた。
池に着くと兄は釣りをし、たくみと私は木に登って遠くの景色を見たり、話しをした。
「たくみ、たくみは寂しくないの?」
「ん…? 寂しい?」
「うん。父様や母様と離れて、ゆいの所に来るの、嫌じゃなかった?」
「ふふっ、嫌じゃなかったよ。俺は父上の話を聞いた時、嬉しくて自分から名乗り出たんだ」
「どうして嬉しかったの?」
「俺、本当の親がいないんだ。俺を拾ってくれた親の家は生活が苦しくて、少し大きくなってからは物を盗ませたり、働かせたりして、何も持って帰れない時は殴られたり蹴られたりして辛かった」
「っ……ご、ごめんね……っ…嫌な事……訊いちゃった……」
「ふふっ、ううん」
たくみが私の頭を撫でる。
「だから、父上が「奉公に来てくれる男の子を探している」って町に来た時、嬉しくて飛び出して名乗り出たんだ」
「でも、父様と一緒に帰って来なかったでしょ?」
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