思い出の場所

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 数日後、渡、遠山、絵里の3人は東北地方の山間にある町を訪れた。かつては林業で栄えたが、今は高齢化が著しく、代々の農家が細々と果樹栽培などを行っているだけという絵に描いたような過疎の町だった。  今はもう廃校になった小学校の敷地へ、絵里は二人を案内した。校舎裏の、山の斜面がまじかに迫っている場所に、木で囲まれた空き地があった。 「ここにそのナマケモノをこっそりかくまって、4人で面倒を見ていたんです」  絵里は懐かしそうに、その空間を見渡しながら言った。遠山が尋ねる。 「先生に見つかったりしなかったのかい?」  絵里は微笑みながら答える。 「もうその頃から過疎の町で、小学校と言っても全学年で30人ぐらいしかいない所でしたから。先生の数も片手で数えられるぐらいでしたし」  渡がしゃがみ込んで地面を見つめながら言う。 「すると10年前か。さすがにその頃の痕跡は残っていないだろうな。児玉君、ナマケモノの餌はどうしていたんだ?」 「幸い草食だったんで、山の中の木の葉っぱを自分で食べるようになりました。拾ってすぐはあたしたちが牛乳飲ませてあげたりしましたけど、すぐに自分で餌を取るようになって」  3人が校庭の方に戻ると、軽トラが走って来て目の前に停まった。運転席から農作業用のつなぎ服を着た青年が降りて来た。 「絵里、帰って来てたのか?」 「守、久しぶり! あ、こちらのお二人が、あたしの大学の先生たち」  守は渡と遠山に深々とお辞儀をした。 「絵里から話は聞いてます。こんな田舎までようこそ。宿はもう手配しておきましたから」  絵里が守に話をうながす。 「それで守、あれがノン太だって話、本当なの?」 「ノン太?」  遠山がいぶかしそうな声を出す。絵里が答える。 「そのナマケモノの名前です。最初は誰かがノンビリ太郎って名前にしようと言い出したんですが、長すぎるからノン太になって」  守が真剣な目つきになって言う。 「最初の頃、あいつコンクリートの角に頭ぶつけて、ここに傷作っただろ。その痕がずっと残って」  そう言って自分の左目の上を指差す。 「あの馬鹿でかいやつの同じ場所に、そっくりの三日月型の傷跡があった。薄暗かったけど、あれだけは見間違いじゃねえ」  渡が絵里と守に尋ねる。 「それでナマケモノの飼育はいつまで続けたのかね?」  守が考え込みながら答える。 「5年生の秋から、俺たち4人が卒業するまでですね。俺は地元に残って農家継ぎましたけど、中学は隣町まで行かなきゃいけなくて。絵里は中学から仙台に引っ越したよな」  絵里がうなずきながら言葉を続けた。 「あとの二人も、卒業後もっと大きな町へ引っ越して行ったんです。その頃のノン太はもうあたしたちが面倒見なくても自分で生きていけるようになってました」  続く守の言葉に遠山が眉を吊り上げた。 「ああ、俺たちが卒業する頃には、あいつ後ろ足で立ち上がると俺と身長変わらないぐらい大きくなってたしな」
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