思い出の場所

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 その夜、守が案内してくれた旅館に渡と遠山は宿を取った。旅館と言っても古びた木造二階建ての小さな建物で、客室は4部屋しかない物だった。  経営する老夫婦の手が回らないからという理由で、遠山と相部屋になった渡は、買い込んで来た缶ビールをちびちびやりながら不満を言い続けていた。 「まったく、部屋はあるんだから、別にしてくれりゃいいものを」  遠山は大皿に盛られた山菜の煮物をつつきながら、のほほんとした口調で言う。 「まあいいじゃないですか。旅は道連れってね。けど、昼間の話で確信が持てました。あの子たちが育てていたのは、現生種のナマケモノじゃなかった」 「どういう事かね?」 「現生種のナマケモノは最大でも60センチ程度だと前に言ったでしょ? あの守という青年が小学6年生の時の身長が、まあ140センチ程だったとして、立ち上がった時の全高が同じだったのなら、既に異常に巨大と言っていい」 「この辺りは原生林と人工林が密集していて、草食性なら餌は豊富だ。栄養状態が良かったんじゃないか?」 「彼女たちはこうも言ってました。自分で山の中へ餌を食べに行ったと。それは地上性の動物の行動様式です。現生種のナマケモノは樹上性、つまり木の枝に一度ぶら下がったら、よほどの事がない限りそこから移動しません」 「ナマケモノとはまったく別種の生物だったという事か? だったら何だ、それは?」 「現時点では分かりません。ナマケモノは1亜目2科。大きさもさることながら、今回のやつに類似した生物は地球上に存在しないはずなんです」  翌日も朝から快晴で暑かった。絵里に案内されて小学校の裏の山を歩き回った後、渡と遠山が校舎の所へ戻って来ると、校庭に黒塗りの高級そうな車が停まっていて、高級そうなスーツの上着を脱いで腕に持って肩に引っ掛けた格好の年配の男が不機嫌そうな様子で3人をにらんでいた。  その隣には白髪の作業着姿の老人が、おろおろした表情で立っている。3人が側まで来ると、スーツ姿の男が居丈高に言った。 「あんたたち、何をしてんだ? こんな所で」  老人が腰をかがめ気味の姿勢でスーツ姿の男に言う。 「ま、まあ、そういきり立たんでも。ん? 君はひょっとして卒業生かね?」  老人が絵里に声をかける。絵里は老人の顔を見て驚いた様子で頭を下げた。 「町長さん! お久しぶりです」  老人はこの町の町長らしい。渡と遠山はあわててぺこりと頭を下げた。スーツ姿の男がかまわずまくし立てる。 「ここの敷地をうろうろするのはやめてもらおう。せっかく再開発の話が出ている土地に、おかしな噂が流れたら困るんだ」  町長は相手の機嫌を損ねる事を明らかにおそれている口調で言う。 「いえ、まだこの土地を売ると決まったわけじゃありませんし。町有地ですから町議会の承認も必要ですし」  スーツ姿の男は町長をぎろりと睨みつけて吐き捨てるように言う。 「明日には議会の承認が降りる事になっとるさ。こんなド田舎に金の成る木を作ってやると言ってるんだ。すぐに取り壊しを始める」  男はくるっと踵を返して、運転手が中から開いた車の後部座席に乗り込んだ。そのまま車は走り去って行く。  絵里が町長の側へそっと近づいて小声で訊いた。 「この学校、取り壊すんですか?」  町長は申し訳なさそうな表情と口調で答えた。 「ここを取り壊して、ある企業の保養地を建てるという計画があってね。なんとか校舎を再利用できないかという声は多いんだが、金の力には逆らえん」
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