思い出の場所

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 翌日の朝、宮下警部補が宿に渡と遠山を訪ねて来た。真夏だと言うのに、暗いグレーのパンツスーツを着こみ、上着の前ボタンもきっちり合わせている。  二人の部屋で宮下はおもむろに切り出した。 「十数年前、絶滅した生物を現生種の胎内で育てて復活しようとしてプロジェクトがありました。違法な物でしたが」  遠山が言う。 「マンモスの細胞から受精卵を作って象に産ませるとかいう話があったな」 「学会の許可を得ていない、金儲けのためのプロジェクトで、その生物の中にこれもありました」  宮下が差し出した書類を見た遠山が、アッと声を上げた。 「メガテリウム! そうか、それなら今回の巨大生物に当てはまる!」  渡が訊く。 「何だそれは?」 「1万年前に絶滅した地上性のナマケモノの近縁種です。化石からの推定では全長8メートル前後。それが人工的に現代に復活させられたという事か」  宮下がメモ帳を見ながら言う。 「南米の南極付近で絶滅生物の体組織の断片が発見されて、その違法プロジェクトが始まりました。でも計画が発覚して、犯人グループは日本国内で逃走。運んでいた荷物の一つが紛失したのが、まさにこの町の付近だったんです」    渡がはっとした表情で言う。 「守君という青年が熊から救われたのは偶然じゃない。守ったんだ。メガテリウムが育ててくれた人間を! いや、もしかしたら、あの小学校も。だとしたら……校舎の取り壊しが始まるのはいつだ?」  遠山が真っ青な顔で答える。 「今日です。もう始まってる!」
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