駅とおばあちゃん

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 おばあちゃんは中学生の頃に、将来の夢であったアパレル会社の社長を諦めたらしい。  「なんで、諦めたんですか?」  [現実を見たからよ。その時はまだ女性の立場なんてあって無いようなものだったからね]  おばあちゃんは昔を思い出して悲しい目をしていた。昔は女性差別などがひどかったと歴史の授業で聞いたことがある。今の時代だと想像もつかないほどにひどかったのだと、おばあちゃんの悲しい目を見て思った。  [現実を見て夢から目をそらすことはできるけど、目をそらす前の夢への思いは、中々消えないの。あなただって――]  『夢に未練、あるでしょ?』  夕立と言うには長すぎる雨が、おばあちゃんが言わなかった言葉の先を紡いだ。私に優しくない性格が、揺れ始める。  [この駅は特別なの。夕立の日だけ、外の人にも見ることができるのよ。でもね、中に入れるのは『諦めた夢に未練が残っている人』だけなの]  [駅に初めて来た時、丁度反抗期が来てたの。家族や親友にひどい言葉を針みたいに刺したり、物をぶつけたり。自暴自棄(じぼうじき)だったのよ]  [夢を否定し続けてたら、色々な人がこの駅に来てくれたわ。すごく昔の人まで来て、私にお説教してくるの。わざわざ来なくてもいいのに、ってあの時は思っていたわ]  [そして、すべてを拒絶していた私の心を暖かく包んでくれた人がいたの]  「誰、だったんですか? その、心を、あ、暖かく、してくれた人は……?」  [――私の、兄よ]
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