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「おばあちゃんの、お兄さん……?」
[そうよ。もうずっと前に死んじゃったけどね]
おばあちゃんはこの駅で、死んでしまったお兄さんと会った……。信じられない話だ……。でも、昔の人が来ておばあちゃんにお説教をしていたらしいから、できなくも無いとは思うけど。なんでお兄さんを呼んだの?
外を見ると、夕立は柔らかい小さな雨粒を優しく降らせていた。夕立にとっても、おばあちゃんは特別な人なのかな。
[私の兄はね、私にたくさんのことを教えてくれてたのよ。親よりもたくさん。兄は私の唯一の憧れなの]
「憧れ……」
私に憧れはいない。憧れがいたら、何か変わることができるのかな。
[それで兄に、すごく怒られたのよ。『なんで夢を諦めたんだ』って。そんなことを言う兄にすごくムカついて、私の気持ちを全部ぶちまけたのよ。『夢なんて諦めることもできる。それに、どうせ夢なんて叶うはずがない』ってね]
「夢は所詮、夢でしか無い」
[案外、そうでもないわよ]
私が言った言葉に、おばあちゃんが否定する。私の気持ちをすべて吐き出すことができれば、どれだけ楽になれるだろう。いや、楽になれないかもしれない。逆に苦しむことになるかも。それだったら、吐き出さない方が楽かもしれない。
おばあちゃんは私の想いに気づいていないのか話し続ける。
[その時初めて、兄に泣きながら叩かれたわ。『夢を諦めるな』って。夢は自分の未来に必要な、大切な想いだって]
[兄に言われて、やっと目が覚めた気がしたわ。誰もそんなことを言ってくれなかったから]
『夢は自分の未来に必要な、大切な想い』
おばあちゃんの言葉が、ゆっくりと私の心に刺さって暖かくしてくれている。
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