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「わっ、雨降ってる」
ホームに戻ると、大粒の雨がザーザーと音を立ててホームの屋根を叩いていた。さっきまで何の音もしてなかったからきっとこれは夕立だろう。
「そういえば、今日は夕立が来るって天気予報で言ってた気がする」
夕立は苦手だ。急に降り始めたと思ったら、もう止んでる。その一瞬の出来事のような降り方がまるで『決められた感情しか出せない人間の一瞬の悲しみ』のように思えてしまう――。
「そんな事考えてる場合じゃない」
私は何を考えていたんだ……。ホームでボーッとしていても駅の名前なんて分かるわけがない。頭を大きく振ってさっきの考えを吹き飛ばす。こんなことを考えるのは私らしくない。もっと明るく行かないと――。
「やっと見つけた」
電車が来た方にあると思っていたら反対側にあった。しかも一回見に来てる。暗くて見つけるのに苦労した。
「屋根の外にあるとは思ってなかった」
いつもの駅みたいにホームの屋根の中にあると思っていたから見逃していた。暗闇の中を目を凝らして見てみると、ちゃんとある。カメラのライトで見ると、雨風に晒されていたのかボロボロになっているのが分かる。古い駅にあるからもしかしてと思っていたけど、読めるかな。
「行くしか無い、かー」
傘はうっかり忘れてしまった。ということは雨に濡れながら確認するしかない。はぁ。
ギリギリまで外に出て空を見上げる。空は真っ暗で星も見えない。今日は流星群が来るとニュースでやっていたから見ようと思ってたのに……。この様子だと、もう見えないだろう。
仕方なく、大事なものを鞄に入れて近くのベンチに置いた。携帯はライトを使うから防水ケースに入れて持っていく。
「じゃあ、行きますか!」
濡れる時間をできるだけ少なくするために大学のサークルで鍛えた足でホームを蹴って走る。大きな雨粒が自身の命と引き換えに私の体を攻撃している。
目元に攻撃してきた雨粒の欠片が頬を伝って私に『吐き出せ』と訴えてくる――。何を吐き出すのか、今の私には分からない。きっと、昔の私でも分からないと思う。
『吐き出せ』
その言葉に、私は笑う。
「何を吐き出すのかは、あんたが一番良く知ってるはずだろ?」
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