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「……そうだ、その通りだ。俺がやった。俺があの悪魔を殺した。母さんはあいつに襲われて……心を壊してしまったんだ。夜、眠り薬をを飲ませないと小さな物音にも怯えるようになって……殺し方は糸で肉を縛った時に思いついた……俺は母さんを、守りたかっただけだった! まさかミハイルの父親が逮捕されるなんて思いもしなかった! 何度も本当は俺が犯人だと言おうと思った! でもあいつが死んでやっと幸せになった母さんを1人残してしまうと思うととても出来なかった!! 友達だったのに。俺がミハイルを不幸にして殺した。アルバン、お前にも酷いことをした。あんなにウィーン行きを嫌がっていたのに」
ヘルツは首を振った。目の奥が熱い。「でも今は行って良かったと思ってる。ウィーン警察に勤めなかったらこの事件を解くことなど出来なかった」
そう言うとルドルフの目にまた涙が浮かび上がった。涙だけで目が潤んだのではないのかもしれない。息はかなり荒く、言葉を紡ぐのが苦しそうだ。
「どうしてお前を呼んだか分かるか? 俺を裁いてもらいたかったからだ! 他でもない、友達だったアルバン・ヘルツに! ……神様! どうか俺を地獄に! そしてアルデンホフ一家に永遠の安らぎと癒しを!」そこまで言った途端、ルドルフは激しく咳き込み、しまいには吐血した。大量の血が流れ出す。ヘルツは大声でヨハンナを呼び、ルドルフを寝かせた。ルドルフは目を閉じず、代わりにアルバンの腕を掴んで縋った。
「アルバン、……最期の頼みを聞いてくれ。告白がしたい。トマス神父様を呼んで来てくれ……」
「分かった。待っていてくれ、……死ぬなよ。すぐに呼んでくるからな」と言いながらヨハンナが持ってきたコートを着た。ドアに手をかけるとまたルドルフが咳き込んで血を吐く音が聞こえて思わず振り返ってしまった。
「アルバン! 早く……!」
「任せろ」とヘルツは努めて冷静に言った。「わたしを誰だと思っている? 『疾風のアルバン』だ」
そう言ってヘルツが笑うと血だらけのルドルフも笑い返した。それは子供時代にいくつも交わした笑みだった。ヘルツは階段を駆け降りるとやっと雨が止んだ外を名前の通り、風のように駆け抜けて行った。
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