一(二)

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一(二)

 このシャーペンをなくしたのは、高一の文化祭だった。  クラスで和風喫茶をすることになり、店名は『だんご茶屋』となった。メニューはそのまま団子と緑茶、加えてあんみつ。  女子は皆、浴衣着用で接待することになり、教室を紅葉の雰囲気に変えた。  美術の得意な緑川は率先して模造紙一杯に木々の紅葉を描いていた。  色は皆で手分けして塗ったのだが、かなり見事な出来栄えだった。  絵を描いている時の彼女は、なんというか無心だった。  完全に絵の世界にのめり込み、ほかの雑音は一切耳に入らない様子で没頭していた。  クラスメイトが、背中に“緑川画伯”なる紙を貼り、周りからクスクス笑われていても、一向に気付く様子もなく黙々と描き続けていた。  そうして絵を描き上げて壁に貼り、客席に赤いテーブルクロスを敷き、どんどん仕上がっていく中で彼女は、 「落ち葉が欲しいね」  ぽつりと言った。  紙で作った大量の花びらをザルに入れて天井からつり下げ、ザルに紐を付けて時折揺らし、上から落ち葉のように降らせたいと言う。  悪くない案だったが、皆それぞれ担当があり、そこまでしなくても……と言う者が多く乗り気でなかった。  というか、皆さっさと終わらせて帰りたかった。  だが彼女は諦めず、赤や茶色、オレンジの折り紙を見つけると、早速はさみを入れ始めた。  誰も手伝う者はいないのに、彼女は構わず作業を続けた。  やがて自分の持ち場を完成させたクラスメイトが一人一人帰って行く中、残り数名になっても彼女はまだ続けていた。  だが見かねたのか、彼女と親しい女生徒などは自分のやるべきことが終わった後で、何人かは手伝っていた。  そしてそこには航平もいた。  なぜなら悲しいことに同じ班だからだ。一人だけ残しては帰れない。    下校時刻ギリギリまで作業し、校門を出た頃には外は真っ暗だった――。  その時、落ち葉の型を取るために使っていたのが、そのシャーペンだった。  だが翌日、緑川の考案した落ち葉は、訪れた客に対し、なかなかの評判だった。
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