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一(三)
「おまえが持ってたのか」
受け取ろうとすると、
「これ、私にくれない?」
「へ?」
普通返すだろうと思ったが違った。
まあ、なくしても別に困っていたわけではないが。
「まあ、別にいいけど」
「これ、使いやすいんだよね」
「使ってたのかよ」
「新しいの、買って返すね」
「いや、いいよ。もう」
そこまで執着はないし、同じようなシャーペンならいくらでもある。
「ありがと。じゃ、これあげる」
彼女が差し出したのは、きなこ棒だった。
「だから、いらねえし」
呆れていると、強引に口に放り込まれた。
「おい、なにす」
途端に、口の中が甘くなる。
「美味しいでしょ」
まあ、昔馴染みの懐かしい味ではあった。
彼女は航平の口の端についたきなこを、何の躊躇いもなく指で拭き取った。
間近でよく見ると、本当に黙っていればモテそうな顔ではある。
これほど変わり者でなければ――。
「おまえってさ、変なやつだよな」
しみじみ呟くと、
「へへ」
彼女は笑った。
「否定しないのかよ」
「だって、よく言われるし」
「ま~そうだよな。誰だってそう思うよな」
その緊張感のない笑顔を見ていると、なんだかこちらまで気が抜けてきた。
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