はだしのゲンを見てくれ

1/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

はだしのゲンを見てくれ

「あんな奴殺してやりてぇ」  つい呟いた。高校での担任の昼の言葉を思い出す。 「今が戦時だったら、お前は真っ先に死ぬ!」 「てめぇだって戦争経験してないくせにさ……」  コンビニでマンガ本の立ち読み。現代の日本の八月は恐ろしいほどに暑くて、エアコンのない部屋からコンビニに涼を求めて逃げてくることもしばしばある。  立ち読みをしながら、ブツブツと呟く男子高校生の俺を人は避けて歩く。 「戦時だったら、俺は真っ先にあいつ殺してるな!」  そう呟く俺の横に一人の中年男性が立つ。 「君は戦争について何か学んだかい?」 「何、あんた?」  いきなり声をかけられて、俺はマンガを読む手をやめる。 「もし、少しでも知りたいと思ったら、はだしのゲンという映画を見てくれないか? 君がどんなに不用意な発言をしているか分かるはずだ」 「何言ってるの? 誰かを殺すなんて誰でも言っているでしょ!?」 「そこだけじゃない。私の祖父母は戦争で死んだ。その事実だけで、私は君にお願いをしているんだ」 「分かったよ……」  あまり深く関わりたくなくてマンガをラックに戻し、俺はコンビニを出る。帰宅して、スマホではだしのゲンを検索をかけてみる。どうやら原爆の話らしい。制作年は一九八三年。俺が生まれるより前。あまり気は乗らない。それでも通りすがりの人でも約束を反故にするのは気が引ける。それをやったら、担任と同じような人物になるような気がしたから。  動画サイトを検索するとそこにもはだしのゲンはあった。俺は迷わずに視聴を開始した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!