はだしのゲンを見てくれ

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 戦時中の幸せな家族。空襲の怯えても貧しくても互いを助け合う家族。出だしは俗な青春映画の気がした。大人も子供も関係なく死んでいく世界。  妊娠している母に、戦争の愚かさを理解して非国民と呼ばれる父。身体の弱い姉。やんちゃなゲンに負けず劣らずやんちゃな弟。  あのおじさんがこの映画を見てくれと言った理由は俺には分からない。ただ、戦時中の日本は貧しく、食うにも困る状況でありながら助け合って生きているのだと感じた。  ただ、その貧しいながらも穏やかな映画の世界は一つのことからガラリと色を変えた。八月六日。広島に原爆投下。  一つの爆弾の投下で直撃をもらった人は皮膚が溶け、目がダラリと垂れ、跡形もなく溶けていく。それは大人も子供も同じ。生き残っても眼球が飛び出し、溶けた皮膚が指先から垂れて、まるでゾンビのように水を求めて町をうろつく。  直撃を免れたゲンは、おばけのようだと言っていた。 「何だよこれ……」  俺は日本にこんな映画があるとは知らなかった。戦時の残酷さとは、こんな目を背けたくなるものだとは思わなかった。  ゲンとゲンの母は直撃を免れたが、他の家族は原爆の衝撃で壊れた家屋の下敷きとなり生きたまま焼かれていく。ゲンと母は一緒に助けようとしたが女性と子供の力では敵わず父が逃げろと訴えるのを聞いて諦めた。  助けたくても助けられない無情。そのとき、俺の目には涙が浮かぶ。  原爆が広島と長崎に落とされて終戦へと向かったことは知っている。だが、その中身なんて知らなかった。俺にとっては遠い昔の物語でしかない。
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