僕の宿題

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「先生、今日はありがとうございました」  病院を出た石田君は、深々と頭を下げた。 「いや…………先生も、立ち会えてよかったよ。片付けもよければ手伝うよ」 「いえ、大丈夫です。毎日来るので、少しずつ片付けます」  そう言った石田君はぐっと拳を握りしめると、先生を見上げ、一気に話す。 「本当にありがとうございました。先生のアドバイスと協力のおかげで、間に合いました。それで、プログラミングの宿題なんですが、今から別の題材に変更してもいいですか?」  思いもしなかった石田君の話に、先生は目を見開いた。 「変更って…………なぜだい?」 「題材にそっていないと思うからです。みんなを笑顔にするプログラミングという、題材に」  石田君はわかっていたのだ。わかっていて、それでもこのプログラミングを選んだ。脳裏に浮かぶ石田君のおばあちゃんの姿ーーーーそうしてでも、急いで再現しなければならなかったのだ。  少し前までなら、再現に立ち会う前ならば、違う返事をしていたかもしれない。でも、答えは決まっていた。  石田君の言葉に、先生は笑みを浮かべた。 「そんなことないよ。石田君のおばあちゃんを笑顔にさせたじゃないか。あれは、石田君にしか作れないプログラミングだよ。君にしかできない、素晴らしいものだった」 「でもーーーー」 「それに、笑顔になったのはおばあちゃんだけじゃない。先生も…………そして、石田君も」 「え…………僕、も?」 「あぁ、とてもいい笑顔だったよ。だから、石田君の宿題は間違ってなんてない。君の選択も…………決して、間違ってなんていないよ」  先生の言葉に、石田君はぐっと唇を噛み締めると、うつむいた。 「はい…………ありがとう、ございました」  石田君の震える声に、彼の抱えるものに、先生はただ黙って彼の肩に手を乗せた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加