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「…………ここ?」
小学校で待ち合わせをした石田君に連れてこられたのは、学区内にある大きな総合病院だった。
「室内って…………まさか、病室?」
その瞬間、抱えていた疑問がすっと溶けていった。再現しようとしていた夕立。それは、見せたい誰かがいたのだ。そのためのプログラミングだったのだ。でもーーーー
「病室で始動って、許可は…………」
機材を使った大がかりなプログラムを、許可もなしに病室で再現することなどできない。
そんな先生の言葉に、石田君の表情が曇った。
「あの…………病院の人に確認したら、大人が一緒ならいいって、言われていて」
それで石田君は立ち会いを希望したのか。でも、普通なら親の方がいいのではないかと思ったが、参観日や懇談で話をした石田君の両親を思い出した。石田君の両親は教育熱心な人で、優秀な石田君にとても期待しているように見えた。だから、言えなかったのだ。題材に沿っていないかもしれないプログラミングに、他の宿題そっちのけで取り組んでいることを。
「すみません…………」
石田君はうつむいた。石田君のことだ、このプログラミングのことで先生の手を煩わせていることは十分にわかっているはずだ。そして、だますようにして連れてきたことも。それでも、再現したかった。きっとそれは、よほどの理由だ。
うつむく石田君に、先生は苦笑した。
「いや、かまわないよ。許可がとれているのなら問題ない。先生もさ、ぜひ見てみたいんだよ」
それは、嘘偽りのない言葉だった。そこまでして石田君が再現しようとしている夕立を、この目で見てみたかった。
「…………ありがとうございます」
そして石田君が向かったのはひとつの病室で、そこに入った石田君は優しい声で言う。
「遅くなってごめんね」
「あら、今日も来てくれたの?嬉しいわ」
そう言いながら石田君の姿に微笑んだのは、ベッドの上にいるおばあちゃんだった。
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