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「あら、そちらの方は?」
「僕の学校の先生だよ」
「まぁ、先生?いつもお世話になっています」
「いえ、突然すみません」
なんと言っていいものか悩みながら頭を下げた先生に、おばあちゃんは柔らかな笑みを返した。
「おばあちゃん、今日はね、いいニュースがあるんだよ」
「いいニュース?あら、なにかしら?」
「今日はこれから夕立が降るんだよ」
「まぁ、夕立が?」
石田君の言葉に、おばあちゃんは窓の外を見た。窓のそとには、夏の日差しに照らされる街が変わらず広がっている。
「うん、さっきニュースで聞いたんだ…………もうすぐ、降るんだって」
言いながら、石田君は棚の上においてあったノートパソコンを開く。そんな石田君に、先生は病室内を見回す。
石田君のプログラミングは大がかりなもので、様々な機材が必要になる。でも、今日は石田君はそんな荷物は持っていなかった。石田君は事前に準備していたのだ。
ノートパソコン以外にも、その下に置かれた簡易エアコンに、部屋の隅にある小さなスピーカー。おそらく窓には映像を写し出すスクリーンシートがすでに貼ってあるのだろう。スクリーンは病院の設備のひとつで、簡易エアコンは石田君の家のものだろう。ただ、スピーカーは先日提案した匂いまで発生させる最新のもののようだ。これを提案した時には、石田君は購入すると言っていた。石田君のことだ、親に買ってもらったわけではないだろう。きっと自分のおこづかいで準備したのだ。プログラミングを組み、病院の許可をとり、一人で機材を準備して運ぶ。そこまでして夕立をこの部屋に再現しようとしているのだ、彼はーーーー
「ほら、窓の外を見て、おばあちゃん」
石田君の言葉で、おばあちゃんは窓の外を見る。それと同時に、石田君はキーをタップした。
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