3人が本棚に入れています
本棚に追加
ひやりとした空気が流れる。
雲が沸き上がり、雷鳴が響く。
すべてを覆うように、勢いよく雨が降りだした。
そこまではよく見る光景だ。先週もこうやって降りだした雨が三日三晩続いた。でも、これは違った。
降り続く雨とともにただよう雨のにおい。それがしばらく続いたのち、徐々に雨は弱くなり、晴れ間とともにやんだ。雨の合間から差し込む光。キラキラと輝く草木。そして、
「まぁ、虹だわ」
空にかかった鮮やかな虹に、おばあちゃんは微笑んだ。
「本当に、夕立なんて何年ぶりかしら」
それは、昔はありふれた景色。おばあちゃんは懐かしそうに目を細めた。
「昔ね、私が子どもの頃なんだけど、家へ帰る途中に夕立に降られて雨宿りしていたの。そうしたら道の向こうから水色の傘が見えて、それが」
「おばあちゃんの、お母さんだったんだよね」
「そうなの。お母さんが迎えに来てくれたのよ。お母さんが私のところに着くころには雨はやんで、こんな風に虹がかかっていたの。だからお母さんと一緒に虹を見上げながら歩いたわ。本当にきれいでね。同じだわ、なにもかも」
窓の外に広がるのは、実際の街並みではない。きっとこれは、彼女の思い出の中の街並み。何度も石田君が聞いた、思い出の世界。
「ありがとう、久しぶりに夕立が見られたわ」
「…………ううん、僕は、なにも」
消え入りそうな声でそう答え、石田君はそっとノートパソコンを閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!