僕の宿題

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 ひやりとした空気が流れる。  雲が沸き上がり、雷鳴が響く。  すべてを覆うように、勢いよく雨が降りだした。  そこまではよく見る光景だ。先週もこうやって降りだした雨が三日三晩続いた。でも、これは違った。  降り続く雨とともにただよう雨のにおい。それがしばらく続いたのち、徐々に雨は弱くなり、晴れ間とともにやんだ。雨の合間から差し込む光。キラキラと輝く草木。そして、 「まぁ、虹だわ」  空にかかった鮮やかな虹に、おばあちゃんは微笑んだ。 「本当に、夕立なんて何年ぶりかしら」  それは、昔はありふれた景色。おばあちゃんは懐かしそうに目を細めた。 「昔ね、私が子どもの頃なんだけど、家へ帰る途中に夕立に降られて雨宿りしていたの。そうしたら道の向こうから水色の傘が見えて、それが」 「おばあちゃんの、お母さんだったんだよね」 「そうなの。お母さんが迎えに来てくれたのよ。お母さんが私のところに着くころには雨はやんで、こんな風に虹がかかっていたの。だからお母さんと一緒に虹を見上げながら歩いたわ。本当にきれいでね。同じだわ、なにもかも」  窓の外に広がるのは、実際の街並みではない。きっとこれは、彼女の思い出の中の街並み。何度も石田君が聞いた、思い出の世界。 「ありがとう、久しぶりに夕立が見られたわ」 「…………ううん、僕は、なにも」  消え入りそうな声でそう答え、石田君はそっとノートパソコンを閉じた。
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